又吉直樹さんとせきしろさんの本。前作『カキフライが無いなら来なかった』で自由律俳句の面白さにハマってしまい、すぐに続編である『まさかジープで来るとは』を読み始めてしまった。
この作品も前作に負けないくらい、面白味と切なさを含んだ人の感情が流れ込んでくる傑作になっており、オススメできる作品なので、前作の時と同じように作品の感想と登場する言葉たちを一部紹介してみたいと思う。
まさかジープで来るとは
概要
「後追い自殺かと思われたら困る」(せきしろ)、「耳を澄ませて後悔する」(又吉直樹)など、妄想文学の鬼才せきしろと、お笑い界の奇才「ピース」又吉が編む五百以上の句と散文。著者撮影の写真付き。五七五の形式を破り自由な韻律で詠む自由律俳句の世界を世に広めた話題作『カキフライが無いなら来なかった』の第二弾。文庫用書き下ろしも収載。
引用:amazon
五七五や季語などのルールのない自由律俳句で、喜怒哀楽とそのどれにも分類されない微妙な感情を刺激してくれる作品集。センスのある写真と散文(小編?)も掲載されており、どれも哀愁と面白味に溢れている。
また、途中で歌人・俵万智さんが一般的な俳句、短歌と自由律俳句の違い、難しさなどを解説を通して書いてくださっているので、読めば一段上の世界で文字を追っていくことが出来る気がする。この解説は一読の価値があるので是非読んでもらいたい。
全体の感想
面白味と哀愁が同居する言葉の玉手箱。
やはりというか何というか、又吉さんもせきしろさんもどちらも素晴らしい言葉を生み出しており、その言葉たちが、読み手の脳をガツンガツンと刺激してくれている状態に快感を覚える。
完全に個人的感覚だが、前作よりも恋愛的な句が減り、その分、やや切ない状況の自由律俳句が増えたような気がする。それでは今回も大量の自由律俳句の中から、僕の胸にグサリと刺さって震わせてくれたおすすめの句に、一言添えて紹介していきたいと思う。掲載の順番はあまり気にせずに、読みやすいように系統別にまとめてみた。
7/13三井寿ゲームのVが上がってきた。懐かしい映像が入っていた。台本などはこれから。 pic.twitter.com/4UMFNwMM4i
— せきしろ (@sekishiro) July 11, 2015
あるある系
“立ち小便の湯気に怯える”
寒い冬の立ち小便で湯気が顔に上がってくる時の不快感たるや。
“壊れて初めて説明書を読む”
あるある。説明書ってある意味、故障の説明書だからね。とりあえずやってみるという大切さもある。
“五分早い時計と頭にある”
遅れないように5分時計を進めておくけど、5分早い時計であることが頭にあるから結局あまり意味がないんだよね。
“スイカに対する感動が年々薄くなる”
わかるわ~。確かにスイカに対する感動は年齢と共に薄くなる。あれほどテンションが上がっていた遠い日の夏が懐かしい。あとプールと雪に対する感動も薄くなっている気がする。
“十年前も老人”
たまにいる。そういう近所の老人。
“男が読む新聞の裏が猥褻”
電車の向かいの席のおっさんあるあるですね。エロ本を電車で読むのはNGなのにスポーツ新聞のエロ欄はなんとなく許されているという不思議。新聞の形状をしていれば官能小説も許されるのかもしれない。
“ああそうかピザを切るやつか”
棒持ってコロコロする奴は、ピザと一緒に出てこないと「はて?」って思うんですよね。
人見知り系
“こんな大人数なら来なかった”
「仲間内で集まる小規模な飲み会だよ」みたいな釣り言葉に騙される。小規模の定義の違いで交友関係の広さをアピールする奴がいるから悪いのだよ。
“ジャッキー・チェンじゃないと否定できずに話は進む”
カンフーの真似しながらテンション高く話しかけてきたんでしょうね。
“常連客と楽しそうなので入れない”
雰囲気のいい小料理屋にはじめて行ってみようとする時あるあるですな。良い店なんでしょうけど、そんなにフレンドリーな空間に飛び込めませんよね。
“誰も隣に座ってくれない”
本当によくある。でも「気にしてないよ、オレ」みたいな顔しちゃうんだよね、強がってしまって。
“数がないから空腹を隠す”
やさしい人見知り。「僕お腹空いてないので結構です」こんなこと言う人がドンドン幸せになる世界でいてほしい。
“目配せの意図は解らないが頷く”
たまにこういう事が起こります。「わかってますよ感」出します。何もわかっていないんですけどね。
思い込み系
“お遍路さんがリュックを背負っていた”
別にいいんだけどね、つい引っかかっちゃうよね。リュックを背負ってるとどことなく俗っぽく見えるという不思議。広義には偏見。
“これはセール品ではなかった”
レジで値引きされなくて気が付くやつですね。今さら「あ、セール品じゃないならいいです」と言いにくいやつです。
“茶を呑んだ本題に入る気だ”
こちらが身構えてますからね。おそらくイヤな要件でしょう。
“麦茶が薄いと馬鹿にされる”
もはや強迫観念みたいで笑ってしまった。馬鹿にされないって、大丈夫だってと肩をゆすってあげたい。
“回文じゃなかった”
回文ぽい文章ってありますよね。つい逆から読んじゃうような、ね。
『かいぶんではたぶんないか』
みたいな感じ。
“暗い外国人を見てがっかりする”
偏見過ぎる笑。暗いのも明るいのも優しいのも臭いのも色々いるよ。
ちょい毒系
“あなたのためにあるような柄”
クソださい柄なんでしょうね、たぶん。
“喩えなくても解っている”
僕もついつい喩えてしまう事があるから注意しなければ…喩えたがりって思われていたらつらいですよね。どれくらいつらいかと言うと・・・
“病んでいるのかと馬鹿が聞いてくる”
これ超好き。「病んでいるのか」と聞いてくる奴はほぼ全員馬鹿ですよね。ああ、何度も読み返してしまうくらい好き。
“巨人に踏んで欲しい人がいる”
いるいる。今もいる。この瞬間もいる。
“ようは自慢話”
恋愛系の相談事は大体自慢話に聞こえてしまうのですが、それは僕が悪いのでしょう。人に話せるような相談事は“ようは自慢話”といえる側面がありますよね。無人島に漂流した人からすれば、対人関係の悩みも羨ましいだろうし。
“食べたくない飴ばかりだ”
なんかピンときた句。たぶん覚えてないけど、経験があるんでしょうね、自分なりに。飴に伸びた手が一瞬止まった瞬間に思い出す句。
せつない系
“剃ったのに剃れと言われている”
これ僕だ。僕のヒゲの事だ。
“自分の物真似で盛り上がられている”
(自分のいないところで)が頭についているだろうからつらい…。しかも、ちょっとデフォルメされてるんだろうなぁ・・・
“褒められたのだけ自分のではない”
ああ、せつないし自虐でいじらないとやってられない…。
“ライトアップされてる民家が見えたら右折”
普段から心の中でライトアップしている家の事をディスってる本人の視点が盛り込まれていて楽しい句。絶対にバカにしているよなぁ。
“殻を破ろうと露出して踊っている”
これって露出している本人の句ですかね?もし第三者が露出して踊っている人を観察して思っている事なら、この観察者が一番残酷だと感じてしまった笑。
“ハイキックを見せてくる”
さっき紹介したジャッキー・チェンの句の奴だ、たぶん。
“落とし穴の結果が悪戯の範疇を越えた”
流血騒ぎに違いない。
“言ってることは正しいが寝癖”
寝癖で台無しになる人間関係。説得力には視覚も大切であるということわざのようだ。
そんな状況もある系
“一か所に集められた桜の花びらはゴミ”
情緒があるような、ないような。でも少しだけ人生を感じる。
“最後の手段を一つ前の人にやられた”
おお、焦る焦る焦る笑。たぶんみな、人生に数回ありますよね。
“その日はバーベキューだと断られる”
わざわざ断る時の自分の用事がバーベキューだと伝えるあたりの人間性が、もう、なんか、恥ずかしい。
“残りのご飯はパセリで食べるしかない”
そこまで追い込まれるまでに何か手段がなかったものか。と、思ったものの、もしかしたら先輩に最後のおかずを奪われた可能性がありますよね。
“紫陽花どころじゃない腹痛”
きっと、それはもう美しい風景が広がっているんでしょうね。それどころじゃないが。
“便座を拭いている段階でノックされている”
上の“紫陽花”の句の続きだったら本当につらいな笑
“カップやきそばを食べながら弔電を送る”
読み手の年齢によって受け取り方が変わりそうな句。若い人が読んだら人間の軽薄さを表現しているように思うかもしれないが、ある程度の年齢の人が読んだら、とても人間的な句に感じるように思う。
“繰り返された注文がいきなり違う”
文句を言いたくはないけど、つい強めにツッコんでしまいそう。
愛だの恋だの系
“これは別れの曲になるかもしれない”
僕はこの句が一番好きだった気がする。恋人と別れ話をしている時にかかっている曲を聞いての一言なのだろうが、そんな風に冷静になっているという事は、恋人との関係をもう諦めているという心情まで伝わってくる句。
“お互い蚊に食われた箇所を掻きながら別れ話をしている”
なんかコミカルで、とても人間的な状況に感じる。あと、このカップルはなんとなく別れなそう笑。
“今では名字も知らない”
勝手に初恋の句だと感じた。もうずっと連絡をとっていない初恋の女の子が結婚したという噂だけ聞いた時に、ふと、そんなことを思いそうだな、と。
“全ての信号に引っ掛かりながら早く逢いたい”
素敵な句。焦る気持ちと募る想いが綺麗にマッチしていて微笑ましくて幸せ。
その他
“荷物を股に挟んで拝む”
なんとなく願いが叶わなそうという不思議な状況。少なくとも一心不乱に拝んでない感じがおもしろ味を醸している気がします。
“合法だが非道”
世の中、そんなことばかり。
“沈黙が一番喧しい”
確かに沈黙の空気が喧しい(やかましい)が、それをこのように言葉にできるって凄いですよね。
“平凡な奇抜がいる”
これ大好き。奇抜の教科書みたいなやついますよね。はいはい、奇抜なやつね。と流される奇抜。もはや奇抜なのか?
“わけあって痰を手に持っている”
笑える。わけあれば、そういうこともある・・・のだろうか??笑
“野球帽が出血する膝を見せてくる”
これ凄い句だと思う。特に「野球帽が」という表現。これは自分(大人)が子供を上から見ており、かつ子供も自分の出血した膝を見ながら、傷を見せてきているという表現だと思う。凄いな、固有名詞だけでこれだけ情景を浮かばせるのは脱帽。
“鏡の中の自分より俊敏に動く”
鏡の中よりも速く動けるように試したことありますよ、笑。厳密にいうと光の伝達スピードの分だけ、鏡よりも俊敏に動けてますよね。
“結露した窓の中にいる”
結露した窓を介して、外側からの視点で自分を見ているという、視点の斬新さを感じる。
散文
とりあえず本当に読んでいて笑ってしまった2作品がこちら
“信じられないくらい踏まれている”
“ずっとベルを鳴らす自転車が近づいて来た”
どちらも素晴らしい傑作だ。
あと、引用したくなる一文が含まれている散文2作品。
“思い出しすぎて何もできない”
の中の一文で、キラキラした学校生活に憧れていたが、まったく憧れたような学園生活がおくれなかった状態の時の一文。
「学校自体は相変わらずそれほど好きではないものの、学校に付随しているものへの思いは強くなった。」
学校と学校に付随している青春が乖離している感情がとてもよく理解できてしまった。
“花火が消えて笑い声だけ聞こえている”
又吉さんのの青春時代を語った話だが、最後の一行が良かった。
「青春は取り返しがつかないほど恰好悪かったりするが、それだけではない」
格好いい一文、スッと胸に入り込む一行でした。
最後に
いかがだったろうか。ニヤリとできたり、昔の思い出を思い出したりできただろうか。細かいディティールはなく、余計な脂肪もない自由律俳句。短い句だからこそ、それぞれの人生を反映したような状況がいくつも浮かび上がってくるので、月並みな言葉だが、きっと読んだ人の数だけ辿り着くイメージは存在するはずだ。
今回は、個人的に好きだと感じた句を紹介してみたが、作品集に乗っている句はもっと遥かに多い。自分に合ったお気に入りの句が見つかるかもしれないので、是非とも一度読んでもらいたい作品集になっている。おすすめですよ!