図書館の魔女の続編は焦らしプレイが長すぎるけどやっぱり名作『図書館の魔女 烏の伝言(からすのつてこと)』-高田大介

  • 2022年3月30日

「マツリカとキリヒトが全然出てこないじゃないか!」

と、読んだ多くの方が思ったであろう感想を一番初めに書いてみた。この『図書館の魔女 烏の伝言(からすのつてこと)』は、前作『図書館の魔女の続編にあたる作品だが、前作を読み終わった流れでそのまま読んでいる人はきっと、マツリカの聡明さやキリヒトの実直さと再会したいからこの続編を読み始めたはずだ。

それなのに会いたかったマツリカもキリヒトも全然登場しないという、究極の焦らしプレイを成功させた名作がこの作品だ。あまりにも登場しないから、新手のマツリカ詐欺かと思ったのだが、最終的に読み終わってみると前作同様、心地よい読後感とまたしても続きが見たくてたまらなくなるという調教が完了する素晴らしい洗脳本なので、今回はこの名作のネタバレ感想と読んでいない方には優れている点を紹介していきたい。

ちなみに前作『図書館の魔女』を読んでいない方は、この感想を読んでも何一つ面白くないと思うので、さっさと買って読むことを勧めたい。

図書館の魔女 烏の伝言

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あらすじ

道案内の剛力たちに導かれ、山の尾根を行く逃避行の果てに、目指す港町に辿り着いたニザマ高級官僚の姫君と近衛兵の一行。しかし、休息の地と頼ったそこは、陰謀渦巻き、売国奴の跋扈する裏切り者の街と化していた。姫は廓に囚われ、兵士たちの多くは命を落とす…。喝采を浴びた前作に比肩する稀なる続篇。

姫を救出せんとする近衛兵と剛力たち。地下に張り巡らされた暗渠に棲む孤児集団の力を借り、廓筋との全面抗争に突入する。一方、剛力衆の中に、まともに喋れない鳥飼の男がいた。男は一行から離れ、カラスを供に単独行動を始めるが…。果たして姫君の奪還はなるか?裏切りの売国奴は誰なのか?傑作再臨!(引用:amazon)

前作『図書館の魔女』は一ノ谷の図書館を中心とした戦と政治のせめぎ合いを、言葉を紡ぐことで渡り歩く大河ファンタジーだった。特に、一ノ谷とニザマの軋轢とその狭間で揺れるアルデシュの三か国の会談は、時代を動かす大きな大河のうねりを感じさせてくれるような迫力のある内容だったので、今作も同じような世界観を期待して読んで見たのだが…。

今作『図書館の魔女 烏の伝言』はハッキリ言って比べるに値しないようなスケールの小さい(ように感じる)物語で、舞台になるのもニザマの国の附庸国クヴァンという港町。読んでいても前作の登場人物が全然登場しないので、本当に続編なのかと憤りを感じてしまうほどだった。しかし、そこは流石の高田先生。新たに登場した剛力衆や、前作では敵方だったニザマの官僚一派も含めて親しみと友情を感じさせてくれるような展開で盛り上がっていき、最終的には胸の熱くなる物語に仕上げている。

感想

全く知らない場所から、全く知らない登場人物たちが躍動する新しい図書館の魔女は、当然のごとく導入部分から作品の世界に入っていくまでに時間がかかってしまう。心のよりどころは登場人物一覧に載っている二人の名前だ

一人はもちろんマツリカの名前なのだが、全然登場しないのでクラス替えしたら知り合いがいなくて、仲の良かった友達の名前が名簿に載ってるのにずっと病欠しているような妙な感覚が続く。簡単に言うと小説に対して人見知りのような状態になってしまう。とはいえ、聞こえてくるマツリカとキリヒトの噂話はニヤニヤしてしまうのだが、笑。

もう一人、謎の隻腕男・カロイの存在も盛り上がる要素だ。隻腕の男といったら、当然前作に登場する元ニザマのスパイで現図書館部隊であるヴァーシャのことなのだが、作中でそれが判明した瞬間には胸の奥が燃えるように高まるのを感じる。変な感覚ではあるのだが、他の登場人物達に先立って自分が<カロイ=ヴァーシャ>であるを知っているということに優越感を感じながら読むことになる。俺は知ってるぜ的感覚。

ただ、マツリカやカロイを楽しみに読んでいたと思っていたのは本当にはじめだけで、気が付くと剛力衆のワカンやニザマのツォユの人間性や、鼠たちの生き方と存在を知り、この心に真を持った彼らのそばに寄り添いたい気持ちになってくるから不思議だ。さらに、差し迫った危機に対する緊迫感を彼らと共に味わうことで、作品に没頭できるようになっていく。

また、ミステリー風に仕上がっているので、登場人物たちの誰から敵に情報がリークされているのか、裏切り者はいるのかといった謎の解明をしつつも、簡単に人が死んでしまう緊迫感のバランスもこの作品の魅力なのかもしれない。最終的には、近衛兵、剛力、鼠のそれぞれが大切にしていることを守り合い、そこに友情や仲間意識が生まれている気持ちの良い結末になっていく。

もちろんマツリカを含めた前作のメンバーたちが登場してからは楽しくて楽しくて一気読みだ。マツリカが登場するととてつもない安心感を感じる自分に気が付いたが、小説の登場人物に対してここまでの信頼感を抱くということに自分自身で驚いてしまった。ラストではタイトルの意味が作品の中核を担う意味になっているので美しく物語が終焉を迎える。また新作を読める日まで時間がかかるのかと思うと気持ちが沈んでしまうが、気長に楽しみに待ちたいと思う。

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おあずけプレイ

冒頭でも書いたが、前作『図書館の魔女』を読み終えた後、もう、すぐにでもマツリカとキリヒトに会いたくて、その足で本屋に駆け込み、この続編にあたる『図書館の魔女 烏の伝言』を購入することにした。本屋を出てすぐ、待ちきれないとばかりにページをめくり読み始めたのだが、もうず~~~~~~~~~~~と、マツリカもキリヒトも登場しないのだ。

いや、おい、どんなおあずけプレイだよ!

と、前作のファンからすると最大限のじらしプレイとも呼べるような状態に憤ってしまった。焦らされて焦らされて焦らされて、ついにマツリカが登場した時には、今まで溜まっていた鬱憤が発散され、一気に作品の面白さが爆発する。そのまま連続爆破するような面白さが最後まで続いていくので焦らされた甲斐もあるというものだ。

また、終盤で仲間たちが強敵と対峙したとき、カロイが強敵・牛目のことを、

「こいつは……手に負えない。キリヒトなみの奴だ!」

と声をあげるシーンがあるのだが、ただキリヒトの名前が登場しただけで、絶頂しそうになったからね。ちょっと(キリヒトの話題に)触れられただけで、ビクンッビクンッ!!って感じ。ちょこんと触れられただけであんっみたいな感じ。焦らされることで感度が上がるのは何も肉体的なことだけではないらしい。ある意味では開放的なカタルシスを味わうことができたとも言える。でも名前だけでも読めてうれしい気持ちになった。キリヒトに会いたいなぁ。続編の情報もあるんですけどね。

続編『図書館の魔女 霆ける塔(はたたけるとう)』の発売はいつになることやら・・・。

最後に

この作品を読み終わった後の喪失感は独特だ。

面白い作品は世の中にたくさんあるはずなのに、『図書館の魔女』シリーズ独特の代えの効かない特別な読書感覚のせいで読み終わった後に一時的な飢餓状態になるのがとてもツラい。この状態を打破するには結局のところ高田先生の新作を正座し口をあんぐり開けて待つしかないのかもしれない。もうすっかり調教は済んでいるようだ。

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