1つの作品を読んだだけで、その作品を生み出した作家の全てを理解した気になるのはあまりにも勿体ない。
特に宮部みゆきのように、社会派ミステリーから時代小説、ファンタジーから読みやすい少年目線の冒険譚など、作品のジャンルが多岐にわたる作家の場合、絶対に数種類の作品を読むべきだと僕は思う。
そこで今回は、僕が過去に読んだことのある『宮部みゆき作品』の中で、絶対に読んでもらいたい、おすすめの作品を厳選してランキング形式で紹介したいと思う。
有名な作家だが、皆さんが知らなかった魅力の扉の一つでも開ける手助けが出来るのであれば嬉しい。
ルールとして
- 実際に読んで面白かった作品を1位から10位までのランキングで紹介する
- さらにランキングには入らないがオススメしたいプラス1作品も紹介する
- 売上げや受賞歴とは無関係で、あくまでも個人的な好き嫌いでランキングを作成している
- 現在個別ページがない作品もいずれ個別ページを作成し、映画、ドラマ、漫画、アニメなど、他の媒体になっているなどの詳細情報はそちらに
- あらすじ・ストーリーは基本amazonからの引用で読んだ時に最大に楽しめるように基本的に重大なネタバレなし
- ダラダラと長い記事なので目次を活用してもらえるとありがたい
作家『宮部みゆき』
1960年12月23日生まれ。学校卒業後、3年間のOL勤務、5年間の法律事務所勤務ののち小説教室へ通い小説家になる。受賞歴は華々しい。主な物だけ。
- 1987年『我らが隣人の犯罪』でデビュー。第26回オール讀物推理小説新人賞受賞。
- 1989年『魔術はささやく』第2回日本推理サスペンス大賞受賞。
- 1991年『本所深川ふしぎ草紙』第13回吉川英治文学新人賞受賞。
- 1992年『龍は眠る』第45回日本推理作家協会賞(長編部門)受賞。
- 1993年『火車』第6回山本周五郎賞受賞。
- 1997年『蒲生邸事件』第18回日本SF大賞受賞。
- 1999年『理由』第120回直木三十五賞受賞。
- 2001年『模倣犯』第55回毎日出版文化賞特別賞受賞。2002年同作にて第5回司馬遼太郎賞受賞、第52回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。
- 2007年『名もなき毒』第41回吉川英治文学賞受賞。
もはやため息しか出ない。
素晴らしい受賞歴だが、受賞の有無には左右されずに作ったランキングをどうぞ!
第10位『今夜は眠れない』
あらすじ
サッカー少年の僕と両親、平凡なはずの一家に突如暗雲が。「放浪の相場師」と呼ばれた男が、母さんに五億円を遺贈したのだ。お隣さんや同級生の態度が変わり、見知らぬ人からの嫌がらせが殺到、男と母さんの関係を疑う父さんは家出―相場師はなぜ母さんに大金を遺したのか?壊れかけた家族の絆を取り戻すため、僕は親友で将棋部のエースの島崎と、真相究明に乗り出した…。古川タクの描き下ろしパラパラマンガも収録。
感想・紹介
2002年5月発売。少年が主人公の一人称で進む宮部作品。小学生の主人公の僕(雅男)の視点で物語が展開するので、大人の立場で読んでいるとすぐにわかることも、理解するまでに少しタイムラグがある所は子供が主人公の物語の醍醐味で面白く、小中高生が読んでも面白い。また、将棋部の親友である島崎が大人の視点を補っているので大人が読んでも違和感なく読み進めることができる(島崎は流石に大人びすぎているが笑)。自分の力ではどうにもならない理不尽と向き合う小学生が、少しだけ大人になる物語だ。この作品はシリーズもので『夢にも思わない』という続編がある。島崎は相変わらず子供離れしている。
第9位『楽園(上・下)』
あらすじ
「模倣犯」事件から9年が経った。事件のショックから立ち直れずにいるフリーライター・前畑滋子のもとに、荻谷敏子という女性が現れる。12歳で死んだ息子に関する、不思議な依頼だった。少年は16年前に殺された少女の遺体が発見される前に、それを絵に描いていたという―。
土井崎夫妻がなぜ、長女・茜を殺さねばならなかったのかを調べていた滋子は、夫妻が娘を殺害後、何者かによって脅迫されていたのではないか?と推理する。
さらには茜と当時付き合っていた男の存在が浮かび上がる。新たなる拉致事件も勃発し、様々な事実がやがて一つの大きな奔流となって、物語は驚愕の結末を迎える。
感想・紹介
2007年8月発売。名作『模倣犯』の登場人物だったルポライター前畑滋子が新たな事件と向かい合う、事実上の続編。『模倣犯』の世界から繋がってはいるものの、その繋がりはそこまで太いパイプではないので、前作を読まなくても一応楽しめるが、せっかくならば順番に読むことをオススメしたい。社会派ミステリーとSF的要素が絶妙なマッチングをみせる作品で、緻密な構成の物語に素晴らしい内面描写が加わり心をつかまれるので、読み進めるうちに、世界観にどっぷりと浸かっていってしまう。1作品を読み切るのにエネルギーがいるタイプの作品だが、面白さは折り紙付きだ。
第8位『淋しい狩人』
あらすじ
通勤電車の網棚から由紀子がふと手にとった一冊の文庫本。頁をめくると、中には一枚の名刺が挾み込まれていた…。本をきっかけに、普通のOLが垣間見た男女関係のもつれを描く「歪んだ鏡」。遺された本から父親の意外な素顔が浮かび上がる「黙って逝った」。そのほか表題作を含め、東京下町の古書店を舞台に本にからむ人間模様を描く連作ミステリー。
感想・紹介
1997年1月発売。比較的珍しい連作短編集。下町の古本屋「田辺書店」を中心に、イワさん(岩永)とその孫である稔が事件を解決していくのだが、古書店が舞台ということもあり、本にまつわるストーリーが続くので本好きにはなんとなく嬉しい展開。ただし、そんな日常が舞台の話の割には起こる事件の内容や規模が大きいので、かなりドキドキできる作品になっている。僕が思うこの作品の魅力は、おじいさんであるイワさんの人柄と孫の稔の関係性にあり、厳しく淋しい事件があっても、2人の信頼感や芯の強さを見ていると、自分も少しずつでも先に進んでいけそうに感じられるので、是非読んでもらいたい。登場人物の人柄に惚れこむような作品はそこまで多くないので、また格別なものがある。
第7位『魔術はささやく』
あらすじ
それぞれは社会面のありふれた記事だった。一人めはマンションの屋上から飛び降りた。二人めは地下鉄に飛び込んだ。そして三人めはタクシーの前に。何人たりとも相互の関連など想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。さらに魔の手は四人めに伸びていた……。だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。日本推理サスペンス大賞受賞作。
感想・紹介
1989年12月発売。第2回日本推理サスペンス大賞受賞。ミステリーではあるが現実離れをしているので純粋なミステリーマニアには受け入れられないかもしれないが、トリックがなんだとか、現実的にどうだとか、そんな事は些細な事で小説として非常に面白い作品。メインではデート商法という社会問題も取り扱いつつも、実際は主人公の少年・日下守の成長という側面から読むべき本だと思う。宮部みゆき作品の少年を主人公にした、精神の成長を描く作品の基礎となった作品なのではないかと僕は思っており、これ以降の作者が描く少年・少女の主人公はみな好感が持てて応援したくなる人物像で描かれている。あと、じいちゃんが堪らなく好き。
第6位『龍は眠る』
あらすじ
嵐の晩だった。雑誌記者の高坂昭吾は、車で東京に向かう道すがら、道端で自転車をパンクさせ、立ち往生していた少年を拾った。何となく不思議なところがあるその少年、稲村慎司は言った。「僕は超常能力者なんだ」。その言葉を証明するかのように、二人が走行中に遭遇した死亡事故の真相を語り始めた。それが全ての始まりだったのだ……宮部みゆきのブロックバスター待望の文庫化。
感想・紹介
1991年2月発売。第45回日本推理作家協会賞受賞作のサイキックミステリー。超能力が出てくるのにライトノベルのように浮付いた印象を受けずに読めるのは、この作品の核が超能力やミステリーの犯人当てではなく、主人公・稲村慎司の内面の心情にスポットが当てられている作品であることの証明だ。作品は全体的に薄暗めの空気感の印象があり、宮部みゆきの他の少年作品とは何となく毛並みが違う印象を受けるのは、初期の作品だけに少し言い回しが重々しいからではないだろうか。それが作品に良い影響を与えているようにも見える。
最後に好きなセリフ。「自分一人で全部しょって立つ気構えがなかったら、他人の身に起こることに関わっちゃいけない」
+1『ICO -霧の城-(上・下)』
あらすじ
(上巻)霧の城が呼んでいる、時が来た、生贅を捧げよ、と。イコはトクサ村に何十年かに一人生まれる角の生えたニエの子。その角を持つ者は「生贅の刻」が来たら、霧の城へ行き、城の一部となり永遠の命を与えられるという。親友トトによって特別な御印を得たイコは「必ず戻ってくる」と誓い、村を出立するが―。
(下巻)断崖絶壁に建つ夢の城にやってきたイコは、鳥篭に囚われた一人の少女・ヨルダと出逢う。「ここにいちゃいけない。一緒にこの城を出よう。二人ならきっと大丈夫」。なぜ霧の城はニエを求めるのか。古のしきたりとヨルダの真実とは。二人が手を取り合ったとき、この城で起きた悲しい事件の幻が現れ始める。
感想・紹介
2004年6月発売。トップ10には入らなかったが、とても特徴的な作品なので紹介。ゲームが大好きな宮部みゆきがゲームの『ICO』をプレーして宮部みゆきからノベライズ化を申し出たファンタジー作品。世界観の描写が素晴らしく、じっくり一人で読んでいると物語にじんわりと引き込まれていき没頭できる。想像よりも重く暗く悲しい物語なので少し読み進めるのがつらかったが、イコの誠実な人柄とトトとの友情が閉塞的な物語を読み進める糧になってくれる。なんとなくゲームもやってみたいなーという気持ちにさせてくれる作品。
第5位『ブレイブ・ストーリー(上・中・下)』
あらすじ
おだやかな生活を送っていた男の子に、突然、両親の離婚話がふりかかる。家を出た父を連れ戻し、再び平和な家族に戻りたいと強く願う少年が向かった先は、運命を変えることのできる女神の住む世界「幻界(ヴィジョン)」だった。5つの「宝玉」を手に入れ、女神のいる「運命の塔」を目指す彼を待ち受けるものとは!?トカゲ男にネコ娘、火を噴くドラゴン。コミカルなキャラクター勢とともに、次々と沸き起こるトラブルを乗り越え、少年は強くたくましくなってゆく。天空を翔るファイアドラゴン、ジョゾの背に乗って北の帝国に向かうワタルたち。目指すは皇都ソレブリアにそびえる運命の塔。が、うちつづく闘いに傷つき、命を失う仲間もあらわれ…。ミツルとの死闘を制し、ワタルは女神と出会うことができるのか?現世の幸福と幻界の未来。最後に選ぶべきワタルのほんとうの願いとは―。運命に挑んだ少年の壮大なる旅を描いて、勇気と感動の涙をもたらす記念碑的超大作、ついに完結!
感想・紹介
2003年3月発売。宮部みゆきはこんな作品も描けるのかと心から驚いたファンタジー作品。俗にいう“異世界もの”なのだが、普通の小学生のワタルが異世界に馴染んでいく様が妙にリアルで、本当にワタルと共に幻界(ヴィジョン)を冒険しているようなワクワクした気分にさせてくれる。もちろん不思議な世界で楽しい冒険をするだけではなく、成長するための試練や、厳しい現実世界と向き合うような絶妙なプロットになっているので、大人と子供と両面から楽しめるファンタジーになっている。映画化もされていて、第30回日本アカデミー賞 優秀アニメーション作品賞を受賞しているので、たまにパラパラと読み返すとアクアタイムスの下手な歌がリピートされる情報だけ付け足しておく。
第4位『レベル7』
あらすじ
レベル7まで行ったら戻れない――謎の言葉を残して失踪した女子高生。記憶を全て失って目覚めた若い男女の腕に浮かび上がった「Level7」の文字。少女の行方を探すカウンセラーと自分たちが何者なのかを調べる二人。二つの追跡行はやがて交錯し、思いもかけない凶悪な殺人事件へと導いていく。ツイストに次ぐツイスト、緊迫の四日間。ミステリー・サスペンスの最高峰、著者初期の傑作。
感想・紹介
1990年9月発売。初読の時に最高にドキドキ出来るミステリーサスペンス小説。主人公たちが記憶喪失の状態から始まるので、読者も主人公たちと共に記憶喪失になりながら事件の真相に迫っていくような構成になっており、「レベル7」という印象的なキーワードだけが与えられている状態からの手さぐりの物語は最高にスリリングだ。胸を張って人にオススメ出来るエンターテイメント作品になっている。意外と宮部みゆき作品では純粋なエンタメ作品は珍しいかもしれないので、人物描写よりもストーリー展開を楽しむべき作品になっている。
第3位『火車』
あらすじ
休職中の刑事、本間俊介は遠縁の男性に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して――なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか?いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵は、カード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史に残る傑作。
感想・紹介
1992年7月発売。第6回山本周五郎賞受賞作品にして初期の宮部みゆきの代表作。推理小説としても優れているが、同時にカードやお金の事についても学べ、さらに情緒もある傑作。謎の失踪を遂げた彰子を追っていく中で、徐々に彰子という人間の輪郭が徐々に明らかになっていく構成は素晴らしく、中盤以降では自分も本間と一緒に彰子を探し会ってみたいという気持ちが溢れてくる。初めて読んだ時の緊張感はとんでもなく、面白くてドキドキしながら一気に読んでしまった。また、賛否あるようだが個人的には終わり方も秀逸だと思っている。
第2位『模倣犯(全5巻)』
あらすじ
(1巻)墨田区・大川公園で若い女性の右腕とハンドバッグが発見された。やがてバッグの持主は、三ヵ月前に失踪した古川鞠子と判明するが、「犯人」は「右腕は鞠子のものじゃない」という電話をテレビ局にかけたうえ、鞠子の祖父・有馬義男にも接触をはかった。ほどなく鞠子は白骨死体となって見つかった――。未曾有の連続誘拐殺人事件を重層的に描いた現代ミステリの金字塔、いよいよ開幕!
(2巻)鞠子の遺体が発見されたのは、「犯人」がHBSテレビに通報したからだった。自らの犯行を誇るような異常な手口に、日本国中は騒然とする。墨東署では合同特捜本部を設置し、前科者リストを洗っていた。一方、ルポライターの前畑滋子は、右腕の第一発見者であり、家族を惨殺された過去を負う高校生・塚田真一を追い掛けはじめた―。事件は周囲の者たちを巻込みながら暗転していく。
(3巻)群馬県の山道から練馬ナンバーの車が転落炎上。二人の若い男が死亡し、トランクから変死体が見つかった。死亡したのは、栗橋浩美と高井和明。二人は幼なじみだった。この若者たちが真犯人なのか、全国の注目が集まった。家宅捜索の結果、栗橋の部屋から右腕の欠けた遺骨が発見され、臨時ニュースは「容疑者判明」を伝えた―。だが、本当に「犯人」はこの二人で、事件は終結したのだろうか。
(4巻)特捜本部は栗橋・高井を犯人と認める記者会見を開き、前畑滋子は事件のルポを雑誌に連載しはじめた。今や最大の焦点は、二人が女性たちを拉致監禁し殺害したアジトの発見にあった。そんな折、高井の妹・由美子は滋子に会って、「兄さんは無実です」と訴えた。さらに、二人の同級生・網川浩一がマスコミに登場、由美子の後見人として注目を集めた―。終結したはずの事件が、再び動き出す。
(5巻)真犯人Xは生きている――。網川は、高井は栗橋の共犯者ではなく、むしろ巻き込まれた被害者だと主張して、「栗橋主犯・高井従犯」説に拠る滋子に反論し、一躍マスコミの寵児となった。由美子はそんな網川に精神的に依存し、兄の無実を信じ共闘していたが、その希望が潰えた時、身を投げた――。真犯人は一体誰なのか? あらゆる邪悪な欲望を映し出した犯罪劇、深い余韻を残して遂に閉幕!
感想・紹介
2001年3月発売。第5回司馬遼太郎賞受賞、第52回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。そして、僕がこれからもずっと宮部みゆきの作品を読んでいこうと決めた作品。深く薄暗い沼にゆったりとしたペースで堕ちていくような気持ちにさせられる物語で、全3章で構成されている長編作品。
翻弄され、心配し、犯人像を想像する1章。過去に戻り読者だけが真相を知らされ、不安になる2章。真相を知っているが為に犯人に対する憎しみと焦りを覚える3章。そして全章にわたり描写されるのは、犯罪により心に傷を負った被害者遺族とその周りの環境。自分も含めた世論の距離を置く考え方と、マスコミの情報処理の問題点。誰もが苦悩し、傷つき、それを乗り越えようともがく様がリアルに描かれている。
作品の特徴としては犯罪者と犯罪そのものにスポットを当てるのではなく、犯罪被害者の心理描写に重点を置いており、そこに作者がこの小説を描くきっかけが含まれているように感じている。あたりまえだが、これだけのテーマでかつ質の高い構成の作品はどれだけの時間を費やしたところで、自分には書く事が出来ないと思うと、自分が作家ではなく読者側で良かったと痛烈に感じさせてくれる力作。
ちなみに小説も面白くドラマも素晴らしかったが、映画に関しては見る価値はない。
第1位『ソロモンの偽証(全6巻)』
あらすじ
(第I部上巻)クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か、自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった――。ひとつの死をきっかけに膨れ上がる人々の悪意。それに抗し、真実を求める生徒たちを描いた、現代ミステリーの最高峰。
(第I部下巻)もう一度、事件を調べてください。柏木君を突き落としたのは――。告発状を報じたHBSの報道番組は、厄災の箱を開いた。止まぬ疑心暗鬼。連鎖する悪意。そして、同級生がまた一人、命を落とす。拡大する事件を前に、術なく屈していく大人達に対し、捜査一課の刑事を父に持つ藤野涼子は、級友の死の真相を知るため、ある決断を下す。それは「学校内裁判」という伝説の始まりだった。
(第II部上巻)あたしたちで真相をつかもうよ――。二人の同級生の死。マスコミによる偏向報道。当事者の生徒たちを差し置いて、ただ事態の収束だけを目指す大人。結局、柏井卓也はなぜ死んだのか。なにもわからないままでは、あたしたちは前に進めない。そんな藤野涼子の呼びかけで、中学三年生有志による「学校内裁判」が幕を上げる。求めるはただ一つ、柏木卓也の死の真実。
(第II部下巻)遂に動き出した「学校内裁判」。検事となった藤野涼子は、大出俊次の“殺人”を立証するため、関係者への聴取に奔走する。一方、弁護を担当する他校生、神原和彦は鮮やかな手腕で証言、証拠を集め、無罪獲得に向けた布石を着々と打っていく。明らかになる柏木卓也の素顔。繰り広げられる検事と弁護人の熱戦。そして、告発状を書いた少女が遂に……。夏。開廷の日は近い。
(第III部上巻)空想です――。弁護人・神原和彦は高らかに宣言する。大出俊次が柏木卓也を殺害した根拠は何もない、と。城東第三中学校は“問題児”というレッテルから空想を作り出し、彼をスケープゴートにしたのだ、と。対する検事・藤野涼子は事件の目撃者にして告発状の差出人、三宅樹理を証人出廷させる。あの日、クリスマスイヴの夜、屋上で何があったのか。白熱の裁判は、事件の核心に触れる。
(第III部下巻)ひとつの嘘があった。柏木卓也の死の真相を知る者が、どうしてもつかなければならなかった嘘。最後の証人、その偽証が明らかになるとき、裁判の風景は根底から覆される――。藤野涼子が辿りついた真実。三宅樹理の叫び。法廷が告げる真犯人。作家生活25年の集大成にして、現代ミステリーの最高峰、堂々の完結。20年後の“偽証”事件を描く、書き下ろし中編「負の方程式」を収録。
感想・紹介
2012年8月第I部 事件。2012年9月第II部 決意。2012年10月第III部 法廷が発売。同級生の死から巻き起こる学校内裁判を描いた作品。と文字で書くとシンプルな物語なのだが、読んでみると深まる謎と奥深さ。作品としての重厚さ、そのプロットの巧みさに感心しつつも作品に没頭してしまう。
宮部みゆき作品らしい人間描写と悪意の強さが心に刺さりながらも、子供でも大人でもない年頃の彼らが、傷つき否定されながら自分たちの信じる真実を目指す姿は胸を打つものがある。また、思春期の肥大化した自尊心が他人への攻撃へ変わる感覚が自分にもあったことや、社会の理不尽を見せつけられる描写を読むことは、自分の卑しい部分を見せつけられているようで、読んでいると目を背けたくなってくる。しかし、嫌なら読むのを止めてしまえばいいのに、それを簡単にはさせてくれないが、宮部みゆきの書く文章の力強さなのだと再確認してしまう作品だ。これだけの長さの文章なのに中だるみもなく続きが気になってしょうがないのは、流石、宮部みゆきと拍手を送りたい!
少しだけネタバレをしてしまうが、樹里と松子の関係を読んでいると『模倣犯』のヒロミとカズの姿のようで胸が苦しくなるので、『模倣犯』を読んだことがある方がいたら是非その感覚を味わってほしい。非常に長い作品なので、気合を入れて読み始めることをおすすめする。
その他の作品は?
ランキングには入れなかったが、当然他にも素敵な作品が多数ある。
『理由』
『我らが隣人の犯罪』
『人質カノン』
『ステップファザー・ステップ』
などの単体作品はランキングに入れるか本当に悩んだ。
また、僕は未読だが、ファンタジー作品の『ドリームバスターシリーズ』。時代小説で言えば、『ぼんくらシリーズ』や『三島屋変調百物語シリーズ』は根強いファンのいる作品だ。
あと、僕も読んではいるものの、ゲームのボツネタで作られてメタ作品の『ここはボツコニアンシリーズ』などは好き嫌いが別れるかもしれないが個人的には苦手。暗い気持ちになるのであまり好きではないシリーズとして、『誰か Somebody』『名もなき毒』『ペテロの葬列』などの杉村三郎シリーズも人気がある。ちなみに文庫版の『ソロモンの偽証』に収録されている『負の方程式』にも杉村三郎は登場しているので、興味があれば読書感想文の対象として検討してみてはいかがだろうか?
最後に
いかがだっただろうか?
こうして作品名を並べてみると、作家・宮部みゆきが如何に幅広いジャンルの小説を書いているかがわかる。冒頭でも述べたが、このような多彩な作品たちを一つだけしか読まないで作家を見切ってしまうのは、本当にもったいない行為なので、是非いろいろな角度からその作家を見てほしいと心から願ってしまう。
興味がわいた作品があれば、ぜひ手に取ってみてほしい。