宮木あや子作品『校閲ガール』の続編にあたる作品『校閲ガール ア・ラ・モード』。あいかわらず可愛らしい装丁で僕らおっさんには買いにくい事この上ないが、内容の方もあいかわらず優しくてなんとなくニコニコできる作品になっている。
ということで、もし前作にあたる『校閲ガール』を読んでない方で今作を読もうとしているのであれば、おそらく読んでもあまり楽しめないスピンオフ作品なので、読むのをやめて前作を先に読むべきだ。
大丈夫ですか?前作はしっかり読んでますね?
では今回はこの『校閲ガール ア・ラ・モード』の感想をガンガンネタバレしながら書かせてもらおうと思う。
校閲ガール ア・ラ・モード
あらすじ
「校閲ガール」のまわりも大変! 出版社・景凡社の面々のオモテウラ満載
出版社の校閲部で働く河野悦子(こうの・えつこ)。部の同僚や上司、同期のファッション誌や文芸の編集者など、彼女をとりまく人たちも色々抱えていて……。日々の仕事への活力が湧く、ワーキングエンタメ第二弾!
憧れのファッション雑誌の編集者を夢見て、総合出版社・景凡社に就職した河野悦子。
しかし、「名前がそれっぽい」という理由で(!?)、悦子が配属されたのは校閲部だった。入社して2年目、ファッション誌への異動を夢見て苦手な文芸書の校閲原稿に向かい合う日々を過ごす悦子。そして明るく一直線な彼女の周りには、個性豊かな仕事仲間もたくさん。
悦子の同期で、帰国子女のファッション誌編集者、これまた同期の東大出身カタブツ文芸編集者、校閲部同僚でよきアドバイスをくれる、グレーゾーン(オネエ系)のお洒落男子、悦子の天敵(!?)のテキトー編集男、エリンギに似ている校閲部の部長、なぜか悦子を気に入るベテラン作家、などなど、彼ら彼女らも、日々の仕事の悩みや、驚くべき過去があって……。
読むと元気が出るワーキングエンタメ!
引用:amazon
前作の『校閲ガール』を読んでいないと何のこっちゃ全くわからないであろう前作のスピンオフ的作品。内容としては、
- 雑誌編集に携わる同期の森尾。
- 校閲部の先輩のジェンダー米岡。
- 堅物の同期、テツパンこと藤岩。
- 嫌な男代表だと思っていた貝塚。
- エリンギというあだ名の男、茸原渚音。
- 小説家のおじさん本郷大作。
以上の6人が主人公の短編作品になっており、時系列は割とバラバラで本来の主人公である河野悦子は要所で登場はするが、脇役程度にしか出てこない。
感想
前作『校閲ガール』を読んでいた時に、あまり好きじゃなかった登場人物や、何考えてんだコイツ脳みそあんのかよと思っていた登場人物たちの内側から物語を読み返すので、新しい視点で前作の裏側を深く掘り下げてくれている。
全体を通して、現状に対しての自分の気持ちや本当にやりたい事とのギャップを埋めるまでの過程が描かれている。どのキャラクターも実は結構いい人たちで感情移入できてしまい、じんわりと良い奴だなぁと思えるので「勝手に嫌っててゴメンよ」と反省してしまう、笑。
また、河野悦子が各話の主人公たちに要所で影響を与えるような行動や言葉をするのも、この作品集の特徴なのかもしれない。各話の感想と、それぞれの主人公たちから見た河野悦子の発言や行動も書いてみたいと思う。
第一話 校閲ガールのまわりのガール・森尾
元読者モデル出身で現ファッション誌編集者の森尾の話。悦子と結構仲良く話していた友人というイメージしかなかったが、現在の仕事に対して一番悩んでいたのは森尾かもしれない。自分がやりたい企画と求められている事との差異に悩んだり、キャリアアップの引き抜きの話は、20代後半の社会人なら経験がある話だ。
この話では悦子はあまり大きく関わらないが、SNSの話から間接的に森尾を勇気づけていた。
第二話 校閲ガールのまわりのガールなんだかボーイなんだか・米岡
ジェンダー米岡の話。空気を読めて、優しくて、それでいてマイノリティであることの辛さが描かれている。いや、辛いよね、優しいとなおさら辛い。恋愛にしろ仕事にしろ辛い。
イケメンで悪意のない正宗くんから女性目線で意見を求められて、小さく傷ついている米岡の事を、「男でも女でもどっちでもないんだから!」と当たり前の事として受け入れている悦子の自然なスタンスが格好良かった。なんだか他人目線で見たほうが悦子に対して好感が持てるという不思議さを感じる。
てか、ここで初めて悦子の移動がミスの尻拭いではなくて、スキルアップの為だったこということが判明する!やるな、エリンギ!!
第三話 校閲ガールのまわりのガールというかウーマン・藤岩
堅物のテツパン、藤岩の話。面白かったけど、キッツイ話でもあった。そのキツさは、地味系カップルが「りおたん」「くうたん」と呼び合うキツさもあるし、その知識の深さから精神的に尊敬していた彼氏に、裏で軽く侮蔑の言葉を投げかけられていたキツさもある。
それでも何故だか読んできて一番感情移入できたのが藤岩だった。「オシャレしてても無駄で可哀想」略してオシャカワの本当の意味を知ってザマアミロと吠えている藤岩を読めて、ああ、なんだか良かったねぇ・・・とほっこりしてしまった。
第四話 校閲ガールのまわりのサラリーマン・貝塚
一作目ではこれ以上ないほど嫌な奴だった貝塚だが、貝塚目線で読むとただの不器用ないい奴だったりするから腹が立つ、笑。特に売れない作家を食わせるために奮闘する姿は格好よく、森尾に手ひどく振られる場面などは格好悪すぎて逆に格好いい。
貝塚が“売れないかもしれないけど出したい本”の校閲を担当した河野悦子が、今までのゲラで一番面白いと貝塚に言ってあげたシーンでは、貝塚が心から救われたように思えて良かった。不器用な人間に心の見返りがある話はとても素敵だ。
第五話 校閲ガールのまわりのファンジャイ
エリンギこと茸原渚音(しょおん)の昔語りがメイン。
てか“しょおん”て、笑。
いやマジ“しょおん”てさ、笑。
とツッコミたい所は多いが、物語としてはノスタルジックな雰囲気もあって一番良かった話。
河野悦子のロマンの欠片もない肩の力が抜けるような魂のリサイクル説が、最後の最後でエリンギの心を少し軽くしてあげるシーンは、本人が狙ってなくても誰かの心に柔らかく刺ささって救ってあげる言葉のいい例に思えた。
でも、最後に登場した葬儀屋の「僕見える体質なんですけど~」のくだりは丸々いらないと思った。泣きそうだったのに激烈に冷めてしまった。蛇足だ。
番外編 工程の宿
前作に起きた、大御所の官能推理小説家・本郷大作先生の奥さん失踪事件の裏側の話。
作品の展開や語り口調が何となく有川浩の作品を思わせるのは、恋愛や、結婚後の信頼関係について書いてあるからなのかもしれない。なんかやたら有川作品臭がプンプンしていた、笑。
愛妻家に見せかけて、愛人を囲いまくっている設定だったが、蓋を開ければただの愛妻家だったという話。素敵な話。
最後に
全体的にライトで読みやすい小説ではあるが、要所で人の心のちょっと弱ってしまう部分を救ってくれるような優しい作品に思える。
仕事でちょっと躓いてしまって元気がないとか、平坦な毎日に活力が沸かない人などはこの作品を読むとエネルギーが復活するかもしれない。是非読んでみてほしい。
あと、そのうち『校閲ガール トルネード』の感想も書かせてもらえたらと思う。