以前、作家・朝井リョウさんと加藤千恵さんがラジオにて「校閲の人たちはもはや宇宙」と褒めていた。それだけ、校閲の仕事は本来ならば気にならないような違和感や言葉の間違いを、驚くほど正確に指摘してくれるらしい。
僕はその話を聞いて以来、校閲という仕事に非常に興味を持っていた。
そんな中で見つけた小説が、宮木あやこさんの『校閲ガール』だ。日テレにて『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』という題名でドラマ化もするこの作品。普段は目にしない校閲という仕事の一部を垣間見ることが出来る作品なので、そのネタバレ感想を書かせてもらえたらと思う。
校閲ガール
あらすじ
ファッション誌の編集者になる! という夢を抱えて出版社に就職した河野悦子(こうの・えつこ)が配属されたのは校閲部だった! 担当する原稿や周囲ではたびたび、ちょっとした事件が巻き起こり……! ? 読んでスッキリ、元気になる! 最強のワーキングガールズエンタメ☆ 憧れのファッション雑誌の編集者を夢見て、根性と気合と雑誌への愛で、激戦の出版社の入社試験を突破し 総合出版社・景凡社に就職した河野悦子(こうの・えつこ)。
引用:amazon
どんな話なの?
校閲という珍しいジャンルに着目した“おしごと小説”。
ちなみに校閲というのは、
こう-えつ【校閲】しらべ見ること。文書・原稿などに目をとおして正誤・適否を確かめること。
~広辞苑より~
といった仕事で、漢字の間違いや電車の時刻表の正誤、人物名や土地の名称などに誤りがないかなどの細かい文章の不備を徹底的に洗い出す仕事のこと。
この物語では、小説・エッセイ・雑誌など、様々なジャンルの文章の問題点をあぶりだす校閲の仕事に就いた主人公の河野悦子、略してコウエツの校閲部での奮闘が描かれている。
悦子はどんなヒロイン?
悦子はファッション雑誌の編集になるために入社したのに、何故か校閲部に配属されてしまう。校閲という仕事自体にまったく興味がなく、楽しさを見いだせずにいるのだが、果たして彼女はファッション雑誌の編集者になる夢を叶えることが出来るのか?もしくは、校閲の仕事に楽しさを見出すことが出来るのか?
・・・なんていう風に書くと、仕事に対して没頭する熱い話に感じるが、実際の主人公は結構グダついていて、ファッションとファッション雑誌の事ばかりを考えており、起こる事件も意外と小規模でくだらないものが多い。
また、編集者の貝塚と話をしている時は口も悪く、読んでいてあまり魅力的な主人公には思えないというところも特徴と言えば特徴か、笑。しかし、ファッション雑誌の編集に異動届が通りやすいように、仕事は完璧にこなしているので、とても好感が持てる部分もあり、良くも悪くも、とても主人公らしい部分を持ち合わせている。
軽く感じられる文章
amazonのあらすじでさえ、
“最強のワーキングガールズエンタメ☆”
と☆マーク付きで書かれちゃっているように、文章の読みやすさ(ポップさ?)が強く、校閲という仕事とのギャップを強く感じさせる作りになっている。
また、会話が軽かったり、ファッションやメイクのダメ出しがあったり、軽いノリで一目ぼれしたり、スイーツがやたら登場したりと、悪い意味での“ガールズ感”がバリバリに押し出されているので、読んでいてあまり強く感情移入できない部分があった。
しかし、途中からその感覚が少しずつ変わってくる。
仕事の葛藤
特に校閲者の葛藤が描かれてからは、登場人物たちの辛さを我が身のように感じてしまった。校閲の仕事では作家とほとんど顔を合わせる機会がないそうで、そんな中、同僚の米岡(オネェ)が大ファンだった四条先生の校閲を担当する。
好きな作家の作品を校閲すると作品として“読んでしまう”らしく、そうなると正確な校閲の仕事は出来なくなってしまう。校閲とは大好きな作品に情熱的に関わろうとすると、その情熱が逆に邪魔になってしまう特殊な仕事だ。
作中にはこんな文がある。
「校閲ガールと編集ウーマン」P83
近づきたくても、どれだけ愛しくても、校閲者は「原稿」に過度の愛情を注いではならない。その「原稿」の生みの親に対しても、人格を露にしてはならない。対象を正しい形へ整えてゆく作業をするだけだ。ならばどうやって校閲者は作家に近づけばいいのか。
好きな職業に就いて情熱を燃やすことも大切なことだが、興味がない仕事に就くことで冷静な判断が出来るからこそ向いているという考え方もあると聞いて、僕はハッとするものがあった。言葉を変えると少し救われるような感覚を味わったと言ってもいい。
応援できる主人公
また、主人公・悦子は性格がきついが一本筋が通っているところがある。ファッション雑誌の編集部に行くためではあるが、仕事は完璧にこなしており、ちゃらちゃらとファッションが好きな訳ではなく、本当に人生の全てを捧げてきたかのようにファッションを崇めている。そういった没頭するものがある主人公は、対象が何であれ魅力的に見えてくるから不思議だ。
ドラマ化向きの作品
作品を読んでいて感じるのは、「ああ、確かにこの作品は映像化に向いているな」ということ。
主演の石原さとみさんも、本来の性格は置いておいて世論のイメージ的には河野悦子と近いと思われている(と僕は思っている)ので、きっとハマリ役なのではないだろうか。石原さとみさんはプロレス好きということもあり、本当はもう少し男性っぽい、接しやすい性格をしている人なのではないかと個人的には思っているが・・・それは別の話なので置いておこう。
ドラマではファッション雑誌の編集者になりたいという主人公なので、当然ファッションやメイクは完璧で、毎回石原さとみの衣装を変化させることで、映像化した時に華やかに“魅せる”こともドラマの見せ所にするのだろう。
背景もキレイ?
また、ホテルのスイーツやら、都内のレストランなど雑誌に載っている事は押さえているという設定の主人公なので、ドラマとして見せたい場所を自由に選択出来るので、映像化に有利な場所で撮影できるというのもドラマ化に向いている理由だ。ドラマ化にあたっては、登場人物の変更は少なそうだが、主人公・河野悦子の性格や舞台になるような場所に関しては、原作との違いが多く見られそうだ。
また、この作品だけではドラマの全体の尺に足らないのではないかと思うので、スピンオフにあたる『校閲ガール ア・ラ・モード』、2016年10月発売の『校閲ガール トルネード』の話も一緒にドラマ化するのではないかと期待している。
装丁の手に取りにくさ問題
問題点を挙げるとするならば、この本の表紙はもう少し何とかならないものだろうか、笑。題名に興味があり、是非読んでみようと書店で探したものの、本屋で見つけたらビックリ。なんとまぁ可愛らしい装丁。
・・・恥ずかしい・・・。
僕みたいなおっさんがこんな可愛らしい本をルンルンとレジに持っていったら、それだけでバイトの子が焦って店長を呼びにいってしまうかもしれない。こんなに手に取りにくい小説は久々だ。笑
実際に購入した時の女性店員の冷ややかな表情を思い出すと思わずギンギンに興奮して悲しくなってしまう。
最後に
世の中に校閲という仕事があり、正しい漢字の使い方、文章の正当性が守られているからこそ、僕たちが普段から目にしている小説や雑誌に正しい知識が掲載されていることになる。
つまり、校閲という仕事は間接的に、僕たちの知識と文化を守ってくれている仕事という事になる。
編集者のように物語の内部に踏み込んでいく事はなく、作家と顔を合わせることもないということで、様々な葛藤のある仕事かもしれないが、尊敬に値する仕事であることは間違いない。
ということで、続編・・・というよりスピンオフにあたる『校閲ガール ア・ラ・モード』についても感想を書かせてもらおうと思っている。