弱ってる女を看病したいフェチにおすすめしたい『病弱探偵』感想文 -岡崎琢磨-

  • 2022年3月28日

多くの岡崎作品の特徴と言えば、作品全体をひっくり返すような大きなどんでん返し。

同氏の作品である『珈琲店タレーランの事件簿』シリーズや『季節はうつる、メリーゴーランドのように』などは最後の場面でくるりと視点を変え、今まで見えていた景色を激変させる文章構成はとても鮮やかだ。僕はそれこそが岡崎琢磨の長所だと思っているのだが、当然、逆転劇のない作品もある。

病弱探偵 謎は彼女の特効薬

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あらすじ

「患者」と「病(やまい)」を合わせた貫地谷マイという名前の主人公は高校1年生。彼女は病弱でしょっちゅう何かの病気にかかっており学校も休みがち。そして床にふせっている長い時間を使って謎を解く「寝台探偵(ベッド・ディテクティブ)」なのだ。マイと幼馴染みの同級生、山名井ゲンキは「病まない」の名前通りに病気知らずの健康優良児。ひそかに想いを寄せているマイのために、ゲンキは学校で起こった不思議な事件を、今日もベッドサイドに送り届ける。6つの謎と2人の恋の行く末は?『珈琲店タレーランの事件簿』著者が放つ新たなるミステリー。(引用:amazon)

病弱な探偵が活躍する連作短編集で、探偵役で病弱な貫地谷マイ助手役の健康体である山名井ゲンキが学校で起こる”日常の謎”を解き明かしていくストーリーとなっている。

ぶっちゃけるとこの話、「めちゃくちゃ面白い作品なので読んでくださいね!!!!」というテンションで紹介したいわけではない。謎に関してもある程度読めてしまうし、読み終えてから再度読み返したくなるようなどんでん返しもない。病気で寝込んでいる時だけ推理する「寝台探偵(ベッド・ディテクティブ)」であることを除いたら主人公の特徴も少なく、とても否定的な言葉を使うならば、平凡なミステリー短編集と言ってもいいかもしれない。それなのにこの作品の感想を敢えて書こうと思ったのは何故か?

その理由はひとえに僕が、

”弱ってる女を看病したいフェチ”

であるからに他ならない。

弱ってる女を看病したいフェチ

弱ってる女を看病したいフェチとは何ぞやと思うかもしれないが、読んで字のごとく弱ってる女を看病したいという欲を心の隅っこで持っている男の癖(へき)のことを言う。”弱ってる女を看病したいという欲”については、わかる人とわからない人がいると思うのだが、結構昔の漫画だが『行け!稲中卓球部』でも「弱ってる女を看病してえ」と言い出した前野が風邪っぴきの女子生徒の家に行っていた場面が描かれていた。

弱ってる女を看病したいという欲求は一部の男性には確かに存在する欲の一つなのだ

何故そんな欲を感じるのか不思議ではあるのだが、皆さんは”自分がいないと生きていけない存在”に対して興奮を覚える感覚を持ち合わせてはいないだろうか?小型犬などに対して感じる感覚。庇護欲あるいは保護欲とでも言えばいいのか、この守ってあげたいという感覚を、この小説では大いに味わうことが出来る。

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庇護欲を満足させる

探偵役である貫地谷マイは本当にすぐ病に伏せてしまう。風邪も引くし、片頭痛持ちで、さらにお腹も壊す。夏にちょっと行動したらすぐに熱中症になってしまう。床にふせているマイは体調が悪いことで不機嫌になりとんでもなく口が悪くなるのだが、ちょっとでも厳しいことを言うと「私を嫌いにならないで」と目をウルウルさせつつ懇願してくるのだ。そんな弱々しい彼女をかいがいしく看病するということが、主人公のゲンキの庇護欲を満足させているのではないだろうか?

意外と最低な山名井ゲンキ

物語ではそう描かれていないのだが、ワトソン役のゲンキは実は結構最低な男ではないかと思う。幼馴染の女の子が身体が弱くて病弱なため友達も少なく、自分が構ってあげなければ学校との繋がりも薄いという状況。ゲンキがいなければ、学校の様子を聞くことも、新たな謎を仕入れることも出来ない。

つまり、ゲンキはマイと社会の橋渡しをしているとも言える。彼女のライフラインを自分が握っているのだ。そして、ゲンキはその橋渡しのポジションに最低な優越感を味わっているように見えるのだ。自分がいなければどうにもならないという頼られる状態に胡坐をかいている状態、それがゲンキという存在なのだ。

作品の特徴

一応、作品の特徴を書いておこうと思う。

①推理を病気に例える

探偵役である貫地谷マイは、その謎を解明するときに犯行を病気に例えて説明するのだが、その説明がとんでもなくわかりにくい点。そして、その病気の種類が多彩でしっかりとその解説をしている点は好印象。

②オチが脱力系

小編のオチがすべてゲンキがマイにキスしようとして、失敗するという脱力系のオチばかりで深く没頭できない点。

③どんでん返しがない

岡崎作品なので最後にどんでん返しがあるものだと思っていたが、ほっこりエンドだったので逆に驚かされてしまった点。

④重苦しくない

病気ではあるのだが、重い病気ではないのでヘラヘラと楽しむことが出来た。脳を休める読書としては最適な気もする。

最後に

病弱探偵』は、キャラ立ちもしているし、なんとなくアニメ化を狙って書かれた本のような気もするのだがどうなのだろう?岡崎作品なのにまったくどんでん返しがないことに何よりも驚くが、まぁたまにはこういう作品があってもいいのかもしれない。

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