心が性悪説に染まっていく『蠅の王』感想文-ウィリアム・ゴールディング

  • 2021年8月1日

ウィリアム・ゴールディングの小説『蠅の王(原題:Lord of the Flies)』を読んだ。

1954年に出版されたこの作品は内容の過激さから多くの出版社から発売を拒絶されていたそうだ。その拒絶も納得してしまうような物語…具体的に言えば、無人島に不時着した少年たちが殺し合う物語なので、当時の出版社の判断も頷ける部分は大いにある。

少年が主人公で、かつ人間の本質的な部分に迫る作品なので、読書感想文の題材にもなるこの作品のネタバレ感想と、仮に感想文を書く場合のポイントになる場所と共に紹介していきたいと思う。

蠅の王

未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく……。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。引用:amazon

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登場人物について

あらすじに補足を入れるに当たって、主軸となりうる登場人物たちのことについて触れてみたい。

まず主人公のラルフ

彼は頭の回転も速く見た目にも爽やかな美少年なので、子供たちが集まった時に自然とリーダーに選ばれてしまうような人間で、学校のクラスで言えば一軍の中の一軍といったところか。作中では精神的な幼さはあれど、皆をまとめ、救助される事を最優先に考えて烽火を絶やさないことを主張するなど、比較的常識的な判断をしていく姿がみられる。

そんなラルフの真逆の存在としてジャックという少年も登場する。

ジャックはプライドと承認欲求が強く、周囲からの尊敬を得ないと自身を保つことが出来ない少年だ。小学生のころにいたよね、そういう奴。面倒くさい奴。彼は、目先の欲求を満たすことを考えているので、烽火なんかより狩りをして、豚を殺して食べることに夢中になり、その方が楽しいということを周囲にアピールする。

そしてもう一人、物語に外せない存在としてピギーがいる。

ピギーはぽっちゃりした体形に眼鏡をかけた、いわゆるいじめられっ子的なキャラクターの少年で、名前のピギーというのも”子豚ちゃん”的なあだ名になっている。ただ、精神的には一番大人に近い冷静な判断をくだしているのだが、子供の世界では意見の正当性よりも、”誰が言うか?”の方が明らかに重大なので、ほぼ、意見が通らない可哀そうな少年。ちなみに唯一メガネをかけているので、火を起こすことが出来る便利キャラだが終盤に落石によって殺されてしまう

この3人を中心に、隔絶された孤島で自己顕示欲がぶつかり、承認欲求が暴走し、人間の内側にある悪がジワリジワリと浮かび上がってくるストーリーが展開する。他にも双子やらサイモンやらのサブキャラは登場するが、それは読んでみて欲しい部分だ。

『蠅の王』の意味

ちなみに題名である『蠅の王』の意味とは新約聖書における悪魔、悪霊の“ベルゼブブ”の事を指す言葉。作中では、遭難中に殺して食べた豚の生首に蠅が群がっている様子の事を指している。その禍々しい表現は人の心の闇を暗喩しているようで、想像すると気分が悪くなってしまう。

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孤島でのいじめ

作中ではリーダーとして推されていたラルフは、孤島という閉鎖空間で徐々に立場が悪くなっていく。集団心理の恐ろしさでもあるのだが、仲間たちが少しずつ少しずつジャックの味方(狩猟隊)になっていく描写は精神的に非常に堪える。

さらに、集団リンチでサイモンが殺され、唯一味方でいてくれたピギーも岩を頭上から落とされて海へ落下し殺されてしまい、最後には秩序もなくなり、島にいる全員が自分を殺そうと追い詰めてくる。ゆっくりいじめが加速してくような描写は、読んでいて気分の良いものではないが、決して起こらないとも言い切れない恐怖がそこに存在している。

承認欲求の肥大

なぜ少年同士の殺し合いなんてことが起きるのかを考察すると、大きな原因としてジャックの承認欲求の肥大が挙げられる。自分ではなくラルフが隊長に推薦されたことが、ジャックの自尊心を傷つけ、承認欲求が膨れ上がることになってしまった。

限られた空間の中で個人の承認欲求が暴走すると周囲を巻き込んで取り返しのつかない悪夢が生まれるのだ。

この物語ではその様子が生々しくありありと書かれている。自分を守るためなら他者を攻撃することが当たり前という考え方も、決して安易に否定されるべきではないが、それにしても方法、手段、タイミングは選ばなければ悲劇しか生まないということだ。

読書感想文にしやすいポイント

もしもこの作品で読書感想文を書こうとしている人がいるのであれば、性善説と性悪説の部分は書きやすいポイントかもしれない。

何か1つ違ったらここまでの悲劇にはならなかったのかもしれないが、この作品を読むと人間の根本は悪なのではないかと疑ってしまう感情は必ず浮かんでくるだろう

人間の性根、あるいは本能と呼ばれるものは、他人を傷つけ、物を奪い、力を持って君臨することを欲しているのだろうか?そこに自身の意見を融合して書くことをおすすめしたいところだ。

他にも、ラルフと自分を同一視して感想を書くこと読む前の自分と読んだ後に考え方が変化した自分の事を対比して書くと評価されやすい読書感想文になるので試してみて欲しい。

ファシズム批判?

また、この作品はどことなくファシズムの考え方を批判しているようにも感じてしまうのは深読みだろうか。

正当性のある話をしていたとしても、一人の人間が作り出したその場の空気や、実際に起こした行動によって、大衆の意見がその真逆に流れていくことがある。蠅の王では子供の話にしてあるが、大人の世界でもいつのまにか常識やモラルがネジ曲がっていることなんていくらでもあるのだ。

一人の独裁者に操られた集団意識とは恐ろしいものだから、気を付けなければならない、とそんな忠告をしてくれているようにも思えるのだ。

最後に

出版を断られるような問題作ではあるが1963年、1990年のそれぞれに映画化もしている。それだけこの作品に力があったということなのだろう。

中学生、高校生の読書感想文のテーマにするには過激で怖い話なので、トラウマになってしまうかもしれないが、島での出来事はそのまま学校のクラス内でも起きている出来事に置き換えることもできる。

スクールカーストから逃げられない中高生にこそ、読んでもらいたい作品とも言えるので、僕はこの作品をおすすめしたいと思う

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