ミステリーの世界には『イヤミス』と呼ばれるジャンルが存在する。読後感の悪い嫌な後味のミステリー、略して『イヤミス』だ。決して『いやらしいミステリー』の略ではない。もちろんそのジャンルも存在して欲しいが。
そんなイヤミスの女王と呼べる作家が湊かなえなのだが、今回は湊かなえ作品の中から『少女』という青春イヤミスのネタバレ感想を書いていきたいと思う。
『少女』というタイトルならばやっぱり『いやらしいミステリー』でイヤミスの方が需要があるような気もするが、社会現象とも呼べる『告白』同様、この作品も素晴らしく嫌な気分にさせてくれる本格的なイヤミスなので、いやらしくなくても安心してオススメしたいと思う、笑。
少女
あらすじ
親友の自殺を目撃したことがあるという転校生の告白を、ある種の自慢のように感じた由紀は、自分なら死体ではなく、人が死ぬ瞬間を見てみたいと思った。自殺を考えたことのある敦子は、死体を見たら、死を悟ることができ、強い自分になれるのではないかと考える。ふたりとも相手には告げずに、それぞれ老人ホームと小児科病棟へボランティアに行く―死の瞬間に立ち合うために。高校2年の少女たちの衝撃的な夏休みを描く長編ミステリー。
引用:amazon
作品は女子高生の由紀と敦子の二人の視点から展開していき、文章の初めについているアスタリスク(*)が一つの話は由紀。二つの話は敦子の視点で語られる。
親友同士だった二人がちょっとしたボタンの掛け違いからすれ違っていき、それぞれがお互いに内緒で人の死というものに対して恐る恐る近づいていく物語。
この作品は、少女というタイトルが示すように10代の少女が依存性の強い友情と人の死に近づくことで、自分自身と向き合い成長していくという<表のテーマ>である『少女の成長』と、物語の終盤で浮かび上がってくる<裏のテーマ>である『因果応報』で構成されており、後述させてもらうが、その<裏のテーマ>こそが湊かなえの真骨頂だなと改めて感じることが出来た。
感想
良い意味で湊かなえらしい苦々しさ満載の一冊。青春小説であり、ミステリーであり、ある意味ではホラーのようでもある。
当たり前の話だが、思春期の女の子の気持ちなんてオッサンの僕にはわからないが、学校生活の中で表に出している感情と、内に秘めている感情に大きな差が生まれているのは、自己開示能力に欠ける10代の時に僕も良く味わっていた感覚なので共感できる。
さらに、人の死に触れる経験をある種の自慢のように感じてしまう思春期の感覚は、恥ずかしながら僕も少し持っていた。人の死に触れる経験を自慢のように感じるのは、自分と死の距離が遠いから感じられる感情であって、死というものを現実的に捉えられないから起こる若年層特有の感覚ではないかと思う。
今となってはそこから遠く離れた場所にいたいと感じており、もう忘れかけていた恥ずかしい感覚には懐かしさすら覚えてしまう。
『少女』というタイトル
湊かなえは作品の題名である『少女』という言葉に皮肉を込めているのではないかと思っている。
というのも、結局主人公の二人にとって、人の死については遠く離れた存在としてしか受け止めきれず、親友との依存性の強い人間関係であったり、欲しいブランド品に対する興味が優って物語が終わっていく様が、思春期特有の自分本位な残酷さのように感じられるからだ。
つまり、湊かなえは文字にはしてないが『(所詮まだ)少女』と言っているように思え、僕はニヤリとしてしまった。
因果応報、地獄に落ちろ
上で少し書かせてもらったこの作品の<裏のテーマ>は、因果応報という言葉になっている。つまり、自分が原因で起きた他人の不幸は巡り巡って自分に返ってくるということ。
この文章を読んでくださっている方の中でまだ未読の方がいるかもしれないので、細かいネタバレ解説は避けるが、この作品はプロットの巧さが光る物語になっている。
例えば、冒頭の<遺書(前)>から始まることで、物語の登場人物が自殺を図ることを予想させる。そして、物語が進む中で二人の少女が登場し、身近な死というものについて考えていく。この段階で明らかにこの二人の少女のうちどちらかが自殺を図るのではないかとミスリードしていく構成は流石だ。
気を付けて読むべきポイントは一つ。
誰の行動が、誰に影響を与えているのか?
その1点を見極めながら考察し、内容を読む事をすすめたい。
映画化情報
映画は三島有紀子監督にて2016年10月8日に公開となる。
公式twitter
キャストもなかなか豪華なメンバー。
桜井由紀-本田翼(ほんだつばさ)
かわいい。うん。かわいい。ストーリーはともかくかわいい。
草野敦子-山本美月(やまもとみづき)
かわいい。深川鈴って山本美月に似てると思っているのは僕だけか。知らなければ別にいいです。
牧瀬光-真剣佑(まっけんゆう)
滝沢紫織-佐藤玲(さとうりょう)
小倉一樹-児嶋一哉(こじまかずや)
児嶋だよっ!
高雄孝夫-稲垣吾郎(いながきごろう)
SMAP的には色々あるけど頑張って!
CMを見る限りだと静謐で美しい映像になってるので、どのような作品になるのか楽しみだったりする。たぶん、この作品は映画原作に向いていると思う。
ちなみにこの作品は漫画にもなっている。
僕は文庫の小説を読んだだけで、コミックは読んでないので別に勧めてはいないが一応リンクだけ貼っておく。
最後に
以上となる。
僕自身には人の死に触れたがる未成熟な感覚はもう失われているが、そこに興味を持って行動していく主人公の二人は、ある意味では至極まっとうな思春期を過ごしているのかもしれない。しかし、因果応報という言葉から連想すると、物語が終わったあとの二人に一体何が起こるのか、想像すると気持ちが重くなってしまう。そしてその重い感覚は『イヤミス』として優れている事を示す一種のバロメーターとも言える。
ちなみに映画では清楚に見える少女二人が登場するので、CMを見る限りだが、どことなく百合な空気も漂っている。ネット配信でもいいから『いやらしいミステリー』のバージョンの『少女』とかも流してくれないかなと期待しているが、1200%ないと思われる。
ということで、素晴らしい『イヤミス』なので、未読の方は是非!