折原一『異人たちの館』感想文|本屋大賞2018年発掘部門超発掘本だけど僕は全然面白くなかった

  • 2022年3月27日

本屋大賞2018年発掘部門超発掘本!折原一『異人たちの館』を読んだ。

本屋大賞発掘部門超発掘本とは、

ジャンルを問わず、2016年11月30日以前に刊行された作品のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと思う本をエントリー書店員が一人1冊選びました。さらにその中から、これは!と共感した1冊を実行委員会が選出し「超発掘本!」として発表しました。

(引用:https://www.hontai.or.jp/find/vote2018.html

といったもの。

ようするに昔の作品からでもおすすめしたい作品を発掘して、消費者にお金を払わせようと 読者に楽しんでもらおうとする書店員さんたちの企画から生まれたものだ。

しかも、この作品はただの発掘本ではない。”超”発掘本だ。

基本的に”超”が付くものにダメなものなんてないはずだ。

そんなテンションで読んだからなのか、なんというか微妙な読後感で、つまらない訳ではないのだけれど、そこまでの面白さを感じない事態になってしまった。

でもせっかく読んでみたのだから、ネタバレ感想でも書いてみようかと思うのでお付き合いいただきたい。

異人たちの館

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あらすじ

富士の樹海で失踪した息子・小松原淳の伝記を書いて欲しい。売れない作家・島崎に舞いこんだゴーストライターの仕事。女依頼人の広大な館で、資料の山と格闘するうちに島崎の周囲で不穏な出来事が起こり始める。この一家には、まだまだ秘密がありそうだ――。五つの文体で書き分けられた著者の初期最高傑作が甦る!(引用:amazon)

5つの文体というのはこの作品の特徴でもあると思う。

「モノローグで語られる山中での独白」や「メインのストーリー」、「作中作」など場面によって字体が変わって変化があるのは面白い。

また、緻密に練られた物語の構成とその伏線回収も良く考えられた作品だと思う。

しかし、やはりこの作品が名作で本当に心から楽しめたかというと、とてもそうは思えない。

ザックリ言ってしまえば、僕はこの本が面白くなかった。

さまざまな書評を読んでいると、多くの読者の方が絶賛しているので、きっと感覚的にずれているのは僕の方なのだろう。

だからこれは作品批判というよりも、

「こういう部分が僕には合わなかったな」

という点をまとめている、マイノリティーのための感想だと思って広い心で読んでもらいたい。

驚けない叙述トリック

まず、いくつもの展開が重なり合って予想だにしない結末へと導かれる・・・はずなのだが、この結末は予想出来てしまう人も多いのではないだろうか。

もちろん、僕の中で細かい整合性などはとれていないし、大まかな概略が予想できてしまっただけなので作品の緻密な構成が問題なわけではないのだが、感情移入できる精神描写があるわけでもないこの手の作品で大まかにでも予想がついてしまうのは致命的のような気がする。

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伏線回収のつまらなさと複雑な構成

伏線の多さもこの作品の特徴ではある。

しかし、最終的にその伏線はきっちりと回収されているにもかかわらず、その回収作業が事務的に感じてしまい読んでいて全然気持ち良くないのだ

作業感が強いというか、ドヤ感が強いというか、予想の範疇だからなのか。

とにかく伏線回収の楽しさを感じないのは痛い。

さらに作品のプロットについても引っかかってしまう。

構成も特徴的だが、特徴的なだけでそれによって驚きが倍増されている気がしない

他にも、

モノローグはあんなにばらけさせる必要があったのか?

とか、

文体が細かく分かれていることでまとまりのない小説になっているのでは?

といった疑問が読んでいる最中から気になってしまい作品の世界に入っていくことが出来なかった。

没頭できないことのツラさを久々に感じてしまった。

作品の説得力

「人間が書けていない!!」なんていう、しゃらくさい事をいう気はないが、

ユキの行動にイマイチ説得力がなかったり、小学三年生で文学賞を受賞した天才少年のわりには、全体的に作中作がチープに感じてしまったりするのは作者の力量の問題だと思う。

また、ラストでいきなり母親に探偵づらされても、読み手としてはなんだか納得がいかない。

それらを含めて全体的に薄~~い小説を読んだ気がしてしまう。

シンプルに言えば”没頭”することが出来ない小説

そして、緻密なプロットとアイデアは素晴らしいが、形にするにあたって力が足りなかった。

僕の中ではそんな印象の作品になってしまった。

最後に

本屋大賞については、個人的には絶大なる信頼を置いているものの、「超発掘本」というすでに絞った素材から、さらに強引にしぼりだしたような本の紹介には疑問が残ってしまった

しかし、過去のノミネート作品を調べてみると、なるほど、この作品は確かに素晴らしいと納得できるものも多いので、やはりこれは個別の相性の問題なのだろうと、自分を納得させつつこの感想文を終わりにしたいと思う。

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