池井戸潤『下町ロケット ゴースト』を読んだ。
まずシンプルにメッチャ面白い。
とにかく面白い。
面白いしか言えない自分の語彙力の無さを嘆きたくなるけれど面白いったら面白い。
なんでこんなに面白いのだろう。
『水戸黄門』のような勧善懲悪の受け入れやすさと、『スクールウォーズ』のように積み重ねてきた努力が実る爽快さなどが混ざり合い、日本人が好きな要素を凝縮して一冊の本にしているかのように思える。
いや、本当に面白い。
このまま続けて書いていても、ずっと「面白い」のごり押しな感想文になってしまいそうだが、折角読んだ作品なので『下町ロケット ゴースト』のネタバレ感想を書いてみたいと思う。
「面白い」ばっかりでもご容赦ください。てへ。
下町ロケット ゴースト
あらすじ
宇宙から人体へ。次なる部隊は大地。佃製作所の新たな戦いの幕が上がる。倒産の危機や幾多の困難を、社長の佃航平や社員たちの、熱き思いと諦めない姿勢で切り抜けてきた大田区の町工場「佃製作所」。高い技術に支えられ経営は安定していたかに思えたが、主力であるロケットエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化、大口取引先からの非情な通告、そして、番頭・殿村の父が倒れ、一気に危機に直面する。ある日、父の代わりに栃木で農作業する殿村のもとを訪れた佃。その光景を眺めているうちに、佃はひとつの秘策を見出だす。それは、意外な部品の開発だった。ノウハウを求めて伝手を探すうち、佃はベンチャー企業にたどり着く。彼らは佃にとって敵か味方か。大きな挫折を味わってもなお、前に進もうとする者たちの不屈の闘志とプライドが胸を打つ!大人気シリーズ第三弾!!(引用|amazon)
大人気の『下町ロケット』シリーズの第三弾。
あらすじでは、帝国重工の業績悪化やら取引先の問題やらで佃製作所が一気に危機に直面すると書かれているが、読んだ印象からすると佃製作所のピンチというよりも、佃製作所の新規の取引先である「ギアゴースト」の経営危機を共に乗り切る話だった。
ギアゴーストの話
1作目『下町ロケット』、2作目『下町ロケット ガウディ計画』の両作品とも、主人公の佃に感情移入していたので「ギアゴースト」のピンチに関しては、そこまで感情移入できなかったが、第一作から登場する作品のスーパーヒーローである弁護士の神谷先生が活躍し始めてからはもう止まらない面白さで一気に読み切ってしまった。
もう下町ロケットっていうか『下町ロケット 神谷無双』とかいうタイトルに変えてしまった方がいいんじゃないかと思えるほどに、神谷先生が無敵の弁護士に見えてきた。
神谷弁護士を主人公にした単独のスピンオフ小説を読みたいぐらいに魅力的だ。
ただ、小説の感想とドラマをごちゃ混ぜにしてしまうのも申し訳ないのだが、ドラマでは神谷先生のキャストをホンジャマカの恵俊彰が演じており、そのキャスティングが個人的には残念でならない。
あーもう、本当にここだけキャスティングが悪いわー。
どう考えても恵俊彰じゃないわー。
マジでセンスないわー。
小説の神谷先生が好きな分、ドラマの恵俊彰演じる神谷先生に対して無念な気持ちが募っていく、笑。
帝国重工の闇
あと、今回の作品では今までずっと付き合ってきた大企業・帝国重工の闇の部分が、かなり多く露呈する内容になっている。
帝国重工自体の印象は元から別に良くはないのだが、帝国重工には純国産ロケット開発計画「スターダスト計画」を担当している財前がいて、僕はその財前に対して心からの信頼を寄せて読んでいたため組織そのものの裏の面を見せつけられると悲しい気持ちになってしまう。
帝国重工は子会社の赤字で3000億円の損失から、来期は赤字転落。
責任をとって社長の藤間が辞任することになり、その藤間の肝いり企画であった「スターダスト計画」も廃止の予定になってしまう。
立ち上げからずっと計画に関わっていた財前も、準天頂衛星「ヤタガラス」の打ち上げを最後にスターダスト計画を離れて、宇宙航空企画推進グループへ移ることになってしまうのだ。
財前がスターダスト計画から離れる描写を読んで、同じく池井戸潤の小説『陸王』で、大手のシューズメーカー「アトランティス」を退社し、こはぜ屋の陸王プロジェクトにアドバイザーとして参加してくれたベテランシューズフィッターの村野さんが頭をよぎった。
「あれ?これ、財前が佃製作所に入るんじゃね?」
「一緒になんか作っちゃうんじゃね?」
なんて思ったものの、終わり方を見るとその可能性は低そうだ。
その辺りの人事はこの作品の次の作品である『下町ロケット ヤタガラス』とも大きく関わってくる内容だと思うので、続編を読んでから感想を書いてみたいと思う。
財前の離脱は残念だが、次の話も楽しみだ。
不義理な丹波
「ギアゴースト」の代表である丹波はこの作品のキーパーソンだった。
終盤までは佃製作所とトランスミッションの共同開発をしていく会社として輝かしい未来が待っていそうな展開だった。
だからこそ佃も「ギアゴースト」の会社のピンチに対して、特許と特許を交換するクロスライセンスの提案であったり、超絶弁護士である神谷先生を紹介したりとやれることをやってあげていた。
それだけ手を貸して協力したにもかかわらず、自らの過去後悔を払拭して帝国重工に復讐するために、重田が社長を務める「ダイダロス」に身売りをした丹波。
読んでいて腹が立つやら、情けないやらでやるせない感情に溢れてしまった。
未来を見ずに過去の復讐に囚われて、義理を欠くギアゴースト伊丹は、続編『ヤタガラス』で痛い目に遭うのだろうか?
今作のラストのモヤモヤを晴らしてカタルシスを感じたい!
イモトアヤコが登場
そしてもう一人。
「ギアゴースト」の天才エンジニア・島津裕もかなり特徴的な人物だ。
「すこし小太りで、割烹着でも似合いそうな雰囲気に愛嬌がある」という、天才エンジニアという言葉のイメージを大きく裏切る印象は物語にアクセントを加えてくれている。
そんな割烹着レディーの役をドラマではなんとイモトアヤコさんが演じるというのだ。
・・・いや、まぁ、その、いいんだけどね。
元々、イモトアヤコさんの事はとても好きで応援しているのだけれど、イモトアヤコはイモトアヤコであって演技をしていてもどうも笑ってしまうというか、物語に没頭できない気がしてしまうので、個人的にはすこし避けてもらいたいキャストだった、笑。
好きすぎるってのも難しいものだ。
最後に
そして驚くことに、この作品のラストはギアゴーストを退社し失望と共に姿を消す天才・島津の様子で幕を閉じるのだ。
これは読後感の良い池井戸作品には珍しくモヤモヤする結末と言えるかもしれない。
ホント、けっこうレアな作品だと言っていい。
しかし、そこは池井戸作品だ。
モヤモヤをモヤモヤのままにしておくことはない。
ということで、この作品にはすぐに続編が出る。
それも、『下町ロケット ゴースト』発売されて、僅か二か月後に『下町ロケット ヤタガラス』が発売される。
こんなに発売日が近い続編は本当に珍しいのだ。
つまり、この『下町ロケット ゴースト』は、それ単体で一つの物語のようにはなっているが、『下町ロケット ヤタガラス』と合わせて上下巻の話と言い切ってしまってもいい作品なのだ。
なんだったら、ラストの一行の横に、
(下巻へ続く)
の文字がない事に違和感を覚えるほどに、笑。
それくらい次作の『下町ロケット ヤタガラス』は、この作品を読んでいないと面白さが半減するような内容になっているので、ヤタガラスだけを買おうとしている方は注意してもらいたい。
絶対にゴーストから読んだ方がよいと断言したいと思う。
「ヤタガラス」と呼ばれる準天頂衛星に繋がる物語は、どのような展開からお家芸である大逆転を見せてくれるのだろうか?
いまから楽しみで仕方ない。