現代社会では、情報はインターネットを使ってすぐに手に入るものになった。
以前は情報源の中心であったテレビや本が大きな力を持っていたが、youtubeをはじめとする動画配信サイトや、Kindleのような電子書籍が増え、情報取得の方法そのものが変わってきている。
特に出版業界では、紙で印刷した本がなかなか売れなくなっていると聞く。
そこで今回の本の紹介をしたいと思う。
『拝啓、本が売れません』
作者は、額賀 澪(ぬかが みお)。
初見では、なかなか読めない漢字の作家さん。
『屋上のウインドノーツ』『ヒトリコ』など、賞を獲得している作品も多数ある作家さんだ。
この作品は、低迷する出版業界の中で生き残るために様々な人に話を聞いて、売れる本を生み出すための努力をしているところを描いた書籍だ。
本を売れるように努力する姿を本で書くという不思議で新しい作品といえる。
拝啓、本が売れません
内容紹介
2015 年に『松本清張賞』と『小学館文庫小説賞』をダブル受賞してデビューした平成生まれのゆとり作家が直面した出版不況の現実! いかに自分の本を売っていくか。その方法を探すために、担当編集と旅に出る!書店員、ライトノベル編集者、ブックデザイナー、Webコンサルタント、映像プロデューサー……。出版業界にいる人、周辺にいる人、外にいる人。さまざまな業界で活躍するキーパーソンを取材。そして、その取材を活かして執筆された文藝春秋により今夏刊行予定の新作を先取り掲載!
◎助言を求めたキーパーソン
三木一馬(元電撃文庫編集長、ストレートエッジ代表取締役社長)
松本大介(さわや書店フェザン店・店長)
大廣直也(Web コンサルタント)
浅野由香(映像プロデューサー)
川谷康久(ブックデザイナー)◎目次
序章、ゆとり世代の新人作家として
糞ゆとり作家、爆誕
第一章 平成生まれのゆとり作家と、編集者の関係
額賀と額賀の同居人
作家志望が気になること
作家と編集の関係
額賀と愉快な担当編集達
小説ができあがるまでに作家と編集がやってること1~7
~出会い編 プロット編 執筆編 改稿編 ゲラ編 装幀編 本が書店に並ぶまで編~第二章 とある敏腕編集者と、電車の行き先表示
文庫本が発売される意味
文庫本の持つパワー
ライトノベルの定義とは
文芸はライトノベル化している?
担当累計六千万部突破の編集者
『君の名は。』のヒットが私達に教えること
世に出た作品は、どれも必ず面白い
いじめられて図書館に逃げ込んでる奴
本を売る一番の近道
お前は今、ドヤ顔しているか
三木さんに会ったその後の話第三章 スーパー書店員と、勝ち目のある喧嘩
店頭からベストセラーを生み出す書店員
書店へ外から人を引っ張ってくる方法
プルーフ! プルーフ! プルーフ!
右を見ても左を見てもプルーフ!
書店員=《読書の最前線にいる者》
タンスの角に足の指をぶつけてほしい人
面白い本を、作るのだ第四章 Webコンサルタントと、ファンの育て方
死にたくなければ「大丈夫」を信じるな
Webに助けを求めることにした!
《左官》とGoogle検索したら何が出てくる?
武器は私の手の中にあった
「額賀澪公式サイト」本当に誕生する第五章 映像プロデューサーと、野望へのボーダーライン
映像化は一つの夢だよね
飲み会には参加した方がいい
出版社を買収するのが出版社ではない
映像プロデューサーのお仕事
映像化のボーダーライン
みんな、失敗したくない。だから提案されたい
作家は表紙にこだわるべきか第六章 「恋するブックカバーのつくり手」と、楽しい仕事
川谷康久さんというデザイナー
君は新潮文庫nexを知っているか!
デザイナーだって、重版が嬉しい
予定調和から、外れろ
新潮文庫nexのフォーマットデザインはこうして生まれた
売れた物を追随することに、世間は飽きている
私を神楽坂に連れてって終章、平成生まれのゆとり作家の行き着く先
小説が生まれた日
ワタナベ氏が水面下でやっていたこと
「俺達の冒険はこれからだ」の先
『風に恋う(仮)』という小説が生まれるまで
拝啓、本が売れません巻末特別付録
小説『風に恋う』(仮)(引用|amazon)
小説だと思って手に取ったが、作者が取材をしていくドキュメンタリー作品だったので少し驚いてしまった。
額賀澪本人が、担当編集と共に出版業界に関わる様々な分野の人間に、
どうしたら本が売れるのか?
という疑問に対するヒントを得るためのインタビューが書かれている。
また、現在の出版業界において本がいかに売れずに苦戦しており、それを覆すための努力がどのようになされているかをまとめられている取材体験本とも言える。
自分自身の本を売るという目的から、カリスマ書店員さんやら装丁のデザイナーさんにアドバイスをもらっらり、本が生み出されるまでの行程を丁寧に説明してくれているので、本が好きな人はとても楽しめるであろう内容になっている。
それに伴い、現在の出版業界の厳しさや、工夫に工夫を重ねないと本屋という存在自体の生き残り方が難しくなっているという現実も書かれており、額賀澪本人だけの話ではなく、業界全体が盛り上がる為にはどうしたらよいのかが考えられている。
ちなみに、本人の作品の販促を促す本でもあるので、読みえてると額賀澪さんのWebも見たくなるし、この作品の装丁もまじまじと見てしまう、笑。
また、本という媒体で本の行く末を心配しているのが、いい意味で滑稽に見えて新しい感覚で読めて勉強になる作品だった。
僕はもともと出版業界に興味があったからとても楽しめた。
本という媒体そのものが好きな人は是非読んでもらいたい。
ほんとごめん
ちなみに、読み終えて心に浮かんだ一番の感想は、
「図書館で借りてホントにゴメン」
だった。ホントにゴメン。
いや、額賀澪さんの本を今まで読んだことがなかったので、ちょっと買うには勇気が足りなかった。でも読んでいて非常に肩身が狭く感じてしまった。
書店での話だが、本を読みなれてくると、
- 作品の装丁
- 裏側のあらすじ
- ペラペラめくった印象
などで、「買うに値する作品かどうか」がぼんやりとわかってくるので、面白い作品が売れるというのは間違っていないと思う。
しかし、
読まない人に本を読んでもらう為にはどうしたらいいのか?
というのは高いハードルがあり、小説原作の映画やドラマからの逆輸入しか、現状では方法がないのではないかと思った。
話をそらしたがホントにゴメン。
「創作物に面白くない作品は一つもないと思ってるんです」
これは三木さんさんが作中で言っている言葉。
僕はこの言葉がすごく好きだ。
本に限らずだが、創作物を楽しめないのは作品のせいではなくて、その作品を楽しむための目と物事を見る角度を持っていないからだと思っている。(文章的に稚拙とかは別だが)
本が出版されるということは、その本を面白いと感じた作者と編集がいたということだ。
楽しめる人間がいて、楽しめる角度がある。
その本を読んで楽しめないのは、自分に欠けているものがあるのだと思える本読みでありたいと、この文章を読んで強く思った。
世界は常に手のひらを返す時期を虎視眈々と狙っている。
ゆとり世代はそれをよく理解している。
とも作中で書かれているが、世論の風潮なんて何か一つの出来事ですぐに変わってしまうものだ。
評価されていた作品が何かのきっかけで叩かれたり、次作も期待しています!なんて言われていてもそのあとにオファーが来ないなんて言うことはザラにあるのだ。
ゆとり世代も自分たちで選んだわけでもないのに、勝手にラベリングされて偏見に満ちたまなざしで見られているが、元々は新しい教育で期待されていた世代だったはずだ。
日本国をあげての勝手な掌返しともいえる。それがゆとり世代だ。
最後に
出版業界の苦戦は知っていたが、改めて文章で読んでみるとその危機感を感じてしまった。
ただ、苦戦は苦戦だがもしかすると新しい形への変革の途中なのかもしれないとも感じた。
どういった形であれ町に本屋があって、ただブラつくだけで新しい作品に出会える環境は残していってほしいと強く願ってしまった。
皆さんも本を買ってください!!!
僕も買います!!!!