池井戸潤の小説『花咲舞が黙ってない』もはや半沢直樹のエピソード0と言ってしまっていいのではないだろうか!ネタバレ感想文

  • 2022年4月2日

TVドラマ『花咲舞が黙ってない』はとても面白いドラマだった。

池井戸潤先生の原作で、お得意の銀行物。東京第一銀行内で起こる不祥事や問題ごとを、臨店(りんてん)の仕事をしている杏さん演じる花咲舞(はなさきまい)とその上司・上川隆也さん演じる相馬健(そうまけん)が口を出して、バッサリと解決していく爽快さが見ている僕の心を軽くしてくれた。

今回はそのドラマと同名の小説『花咲舞が黙ってない』のネタバレ感想を書いていきたい。

この小説がドラマの原作かと思いきや、実はこの作品自体は関係なかったりするので色々とゴチャゴチャしてるんだよね、この小説って。

花咲舞が黙ってない

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あらすじ

その日、東京第一銀行に激震が走った。頭取から発表されたライバル行との合併。生き残りを懸けた交渉が進む中、臨店指導グループの跳ねっ返り・花咲舞は、ひょんなことから「組織の秘密」というパンドラの箱を開けてしまう。隠蔽工作、行内政治、妖怪重役…このままでは我が行はダメになる!花咲舞の正義が銀行の闇に斬り込む痛快連作短篇。(引用|amazon)

厳密に言うと、ドラマ『花咲舞が黙ってない』の原作は、この小説『花咲舞が黙ってない』とは違う作品で作られている。

完全に同じ名前の小説なので、「ドラマが面白かったから原作も読んでみよう!」と思って購入した人の内、何人かは騙されたと感じるかもしれない。そりゃそうだ。だって同じ名前なんだもの。

このドラマはもともと池井戸潤の経済小説『不祥事』『銀行総務特命』をベースに作られたドラマだ。どちらの本も銀行内で起こる問題ごとを行内で調査して解決する作品なので話のテイストは似ているが、主人公である花咲舞は『不祥事』の方にしか登場しない『銀行総務特命』では指宿修平という違う主人公が活躍している、まったく別の作品なのだ

つまり、ドラマ放送時点で実際に花咲舞が登場する小説は『不祥事』の一冊だけだったのだ。これは結構ビックリする事実だが、いち早くキャラクターとしての”花咲舞”の魅力を見抜いたドラマ制作者が優秀だったと褒めるべきなのかもしれない。

そんな経緯を持つ花咲舞のシリーズだが、ドラマの好評を受けてそのドラマの同名小説『花咲舞が黙ってない』がドラマの後に発売されることになった。

ドラマしか知らない人たちは、おそらくこちらを一作目だと思って読んでしまうかもしれないが、こちらは二作目なので注意してほしい。ドラマの後に書かれた作品なので、どことなくドラマのキャラクターに小説が寄せているような印象を受ける。

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前作との違い

では作品自体の感想・印象を書いていきたいと思うが、この作品は『不祥事』の続編としてとても面白い作品だった。

前作との違いとして、舞の性格がドラマに近く柔らかくなったように思える。以前の舞はもう少しツンケンしていて同僚にいたら少し面倒くさそうだなと感じていたが、それが柔らかな印象を受ける女性に変わった印象を受けた。これは読者の立場としては素敵な変化と言える。

その変化は、作者である池井戸潤がドラマに近い人物造形にあえて寄せて書いた可能性が高いが、もし相馬という”事なかれ主義”でありつつも、部下の気持ちを汲んでくれるいい上司に巡り合えたことで、舞の性格が柔らかくなったのであれば作品のファンとしては嬉しく感じてしまう。

また、『不祥事』の時と同じく連作短編集の形態をとってはいるが、今回の作品の方が一つの長編作品としても完成されている印象を受ける。作品を通して大きなストーリーが見えやすいので、ほぼ長編といってもいいような作品になっている

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半沢直樹エピソード0

これは『花咲舞が黙ってない』に限ったことではないのだが、池井戸作品の多くは勧善懲悪で、最後の部分で正義が勝つという爽やか展開が多い。この作品でも最後はスカッとした読後感を味わえる。

追い詰められた終盤では、何の権力も持たないただの行員である舞が組織の決定に黙らずに、言うべきことを相手に伝えたからこそ物語が大きく逆転することになった。小さな抵抗が大きな逆転を生む展開は、読んでいてもテンションがあがるものだった。

でも僕が一番テンションが上がったのはクライマックスではなくて、若き日の半沢直樹が登場した場面だった。

そう、この小説には若き日の半沢直樹が登場するのだ。島耕作で言えば『ヤング島耕作』のようなイメージだ。たぶん。知らんけど。事前情報をシャットアウトして読んだので物凄いテンションが上がってしまった。

花咲舞は好きだけど、半沢直樹が登場すると一気にそちらに気持ちが持ってかれてしまった。いやぁ・・・半沢直樹は格好いい。最高だよね。もうこれって”半沢直樹エピソード0”なんじゃね?と、テンションをあげ続けてしまった。

また、”半沢直樹エピソード0”なので『半沢直樹シリーズ』の舞台となる銀行・東京中央銀行の前身である東京第一銀行産業中央銀行が舞台となっているという点も面白い。将来的に合併したあともこの二つの銀行の派閥争いがあるので、その前身の銀行の状態を読めるというのはファンとして魅力を感じてしまう。

最後に

どうやら『花咲舞シリーズ』はこの作品でラストで、これ以上のシリーズ作品は書かないという噂がある。スカッとする作品だったので個人的にはとても残念だが、池井戸さんが決めたならそれも仕方ない。

だが・・・それならば、ぜひとも半沢直樹の続編にあたる新作を書いてほしいという欲が沸き上がってくる。

言っても仕方ないことなのだが、舞と同じように”黙ってない”で言葉にすることで何かが変わるかもしれないので、最後に半沢直樹の続編希望を伝えてみたい

「池井戸さん!半沢直樹5を期待しています!!」

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