安倍首相が「緊急事態宣言」延長の記者会見で、確実に感染拡大が収束に向かっている証拠の1つとして、「直近の実効再生産数が1を下回っている」ことを挙げました。
実効再生産数とは何を意味するのか?簡単に分かりやすく説明してみましょう。またどのように計算するかも確認してゆきたいと思います。
果たして、これは緊急事態宣言解除の条件に使えるのでしょうか?
実効再生産数とは簡単に分かりやすく言うと?
感染症の流行が進行中の集団での、ある時点での感染拡大の程度を見るのに、実効再生産数という指標があります。
5月1日の政府の専門家会議によると、3月中下旬に2以上だった実効再生産数が、4月10日に全国で0.7、東京は0.5の値となったことで、感染拡大が収まりつつあるとしています。
まずウイルスそれぞれの感染力の特性を示す基本再生産数から説明しましょう。
基本再生産数R0とは、ある感染者が、その感染症の免疫をまったく持たない人の集団に加わったとき、感染力を失うまでに平均して何人に直接感染させるかという人数であって、つまり1人の感染者が何人に感染を広げる可能性があるかを示します。
R0は、感染症の種類によって違い
最も感染力の強い麻疹では、12–18、風疹で5–7、SARSで、2–5、インフルエンザで、2–3とされており、今回の新型コロナの場合は、現時点では、インフルエンザ並みの1.4~2.5とされています(WHO)。
これに対し、実効再生産数Rtとは、感染症の流行が進行中の集団の、ある時点における、1人の感染者が平均して何人に直接感染を広げるかという人数になります。
基本再生産数R0が、感染症固有の値であるのに比べ、実効再生産数Rtは、感染の初期か収束期かという感染の段階や、すでに感染して免疫を獲得した人の全体での割合や、我々が最近行っている3密を避けるなどの感染防止策の程度により変動します。
クラスターによる大規模な感染爆発が起こった場合は、大きくなり、感染防止策が国民に周知され、着実に実行されれば、小さくなります。
簡単な例を考えて見ましょう。ある人が感染したら、必ず翌日の1日間だけ誰かにうつすとし、感染者は即座に全員が特定できると仮定します。
ある日10人が感染し、翌日の感染者の全数が17人だとすれば、17/10により、この時点での実効再生産数Rtは1.7となります。
しかし、現実は、感染者がいつから、何日間にわたってうつすのか(個々のバラつきも含む)、陽性と判断されるまでの期間など感染過程を仮定して推定する必要があります。
実効再生産数が1を下回ることが、感染が収束してゆく上では、大事なことになります。
「実効再生産数が1を下回ったとき」とは人の感染者から実際に直接感染する人が1人未満となることで、感染者数が減少に転じ、感染拡大が収束に向かうことを意味します。
4/1のメディアの記事では、ヨーロッパでは、ロックダウンなど政府の介入が行われる前の実効再生産数は3.87(推定)。介入によってイタリアは1に近づき、ノルウェーは0.97、介入を行わなかったスウェーデンは2.64で、11カ国を平均すると1.43まで下がりました。
大阪府の資料によれば、EU ,ドイツ、イタリアの行動制限解除基準の1項目に、実効再生産数1未満、ニューヨーク州に、1.1未満が入っています。
現時点での感染症の流行が拡大しつつあるのか、収束しつつあるのかその程度はどうかを見るのに有用な指標であることが分かります。
実効再生産数の計算式
では、どのように計算するのか、専門家会議では計算式が示されていませんが、京大山中伸弥教授初め、必ずしも感染症の専門家でない方が、種々の感染研究者のツールを用いて新型コロナにおける実効再生産数Rtの計算を試みています。
・富山大学 折笠秀樹教授
http://www.med.u-toyama.ac.jp/biostat/hitori.html
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.01.27.20018952v1.full.pdfより、
実行再生産数(Rt)の計算式
Rt= K2(L × D) + K(L + D) + 1
ここで、
K=対数成長速度(Logarithmic growth rate)
L=平均潜伏期間(latent period)=7日 [上記論文中に示された中国CDCデータ]D=平均潜伏感染期間(latent infectious period)=9日 [上記論文中に示された中国CDCデータ]これより、
Rt = K2×63 + K ×16 + 1
Kは、感染者数の対数値をY軸に、日数をX軸として、近似した直線の傾きで定義されます。
1スパンを10日(5日、7日など)と取っています。
・山中伸弥教授:Cori先生らのExcelツールを用いた方法
https://academic.oup.com/aje/article/178/9/1505/89262
(計算方法)
1.Coriらの論文からRtを計算するためのエクセルシートをダウンロード
2.Qifang Biらの中国深圳での研究論文からSerial intervalの平均を6.3日、標準偏差を4.2日と仮定(Serial interval:最初の患者とそれによって発生した二次的患者の症状発現時期のずれ)
3.大阪府、北海道、京都市の感染者数の推移をダウンロード
4.エクセルシートに感染者数を入力すると、Rtが計算される。
・Thompson先生らのwebツールを用いた方法
https://shiny.dide.imperial.ac.uk/epiestim/
なお、リアルタイムで、都道府県別、3月1日以降のRt変化を表示している日本のサイトがあります。
https://rt-live-japan.com/
米国CDCは3/20以降各州での実効再生産数を示しています。
https://rt.live/%EF%BC%89
基本的には、いくつかの定数を仮定すれば、感染者数の推移のデータさえあれば、Rtは計算できるようです。
実効再生産数に関するネットの反応
- 実効再生産数の数値表現は納得できるけどデータの取り方や量と質で大きく増減ありそう
- 実行再生産数が東京で0.5でも解除しないのは、圧倒的にPCR検査数などデータが少なくて信憑性が低いからだ。
- 感染者数と感染日が把握できていれば、実効再生産者数は簡単に出てきます。かならずある仮定(理論)のもとでの計算となります。この仮定と元データを専門家委員会が公開してくれれば、他の専門家の知恵も加わってより確からしい数字が得られるはずなのですが。
- 実効再生産数を意味あるものにするには、検査の数よりも検査対象が重要なのでは?各国とも症状の出た人とその接触者を検査している状態。街中で不作為に選んだ対象者を検査して算出すべきだと思う。
- 日本は、そもそもPCR検査の数が限られている状況なので、陽性患者の数を正しく把握できていない。その状況で、実効再生産数を出しても、海外のように政策決定するための指標としては使えないだろう。
出典:ヤフコメ
まとめ
- 実効再生産数とは、感染症の流行が進行中のある時点における、1人の感染者が平均して何人に直接感染を広げるかという人数であり、1以上か未満かで感染が拡大しつつあるか、収束に向かおうとしているかの指標となる
- いろんな計算法があるが、いくつかの仮定を置けば、基本的には、感染者数の推移のデータさえあれば計算できる
- 実効再生産数を発表している欧米各国に比べて日本では感染者数を確定するPCR検査が十分行われていないことが、この数値の信頼性を失わせているのではと懸念する声が多い
今後の緊急事態宣言解除の重要な指標になるのではと考え、実効再生産数Rtについて調べました。
確かに大事な値ですが、感染者数の推移をみればピークへ向かって拡大しているか、ピークを過ぎて収束しつつあるかはわかります。
日本の各都道府県の状況も、現時点で、東京0.32(信頼区間90%で0~0.89)、大阪0.24(信頼区間90%で0~0.96)、鳥取2.11(信頼区間90%で0~4.42)となっており。感染者数の規模で、値やバラつきが左右されるのか実感とはかなり違います(https://rt-live-japan.com/より)。
注:信頼区間90%とは数値の平均が90%に入る範囲
実効再生産数にPCR検査数が少ないことが反映されているのかもしれませんが、少なくとも日本でこの数値が独り歩きするのはかなり危険ではという気がしました。