自民党がダーウィンの進化論を誤用した言い回しを使って憲法改正の必要性を訴えたのに対し、ネットで批判が殺到したうえに、日本人間行動進化学会が誤用に反対するとの声明を出し、騒ぎになっています。
進化論の解釈の間違いってどこにあるのでしょう。本当はどういう意味なのかということが、はっきりしないで議論が沸騰しているように見えます。
ここで、進化論とはどのような内容で、今回の解釈のどこが間違っていたかという点をじっくり、分かりやすく解説してみたいと思います。
進化論の間違い?自民党広報のツイッターで話題
自民党広報のツイッターで話題となった進化論の解釈の間違いの経緯を見てゆきましょう。
自民党がダーウィンの進化論を誤用した言い回しを使って憲法改正の必要性を訴えたのに対し、日本人間行動進化学会が誤用に反対するとの声明を出しました。
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自民党の憲法改正の必要性を訴える漫画では
ダーウィンの進化論ではこう言われておる(として)
・最も強いものが生き残るのではない
・最も賢いものが生き延びるのでもない
・唯一生き残ることができるのは変化できる者である
(よって)
これからの日本をより発展させるためにはいま憲法改正が必要と考える
というものです。
つまり生き残ることができるのは変化できるものだけだ。変化しないものは滅びるということだと思います。
これからは、憲法を金科玉条に守っているのではなく、時代の変化に従って、改正を考えるべきという趣旨だと思えます。
これに対し、日本人間行動進化学会が「生物の進化のありようから、人間の行動や社会がいかにあるべきかを主張することは、論理的な誤り」であるとし、誤用に反対するなどとする声明を出しました。
その理由の1つ目は、
⽣物の進化のありようから、⼈間の⾏動や社会がいかにあるべきかを主張すること(⾃然主義)は、論理的な誤り(⾃然主義的誤謬)である。
これは。いかなる⽅向性・内容で⽣物進化がどのように進むのかという事実の記述を踏まえて、「⼈間社会も同様の進み⽅をするべきである」とする議論です。
その理由の2つ目は、
そもそもダーウィンは「唯一生き残ることができるのは変化できる者である」とは言っていません。
これについては、次に詳しく見てゆきましょう。
進化論の間違い本当はどういうことか分かりやすく解説
ダーウィン的進化とはランダムに⽣じた様々な個体の変異の中から、環境に適さないものが淘汰されていくプロセスで、環境に適した個体が生き残ってゆくというものです。
生物の進化は 生物同士が同一環境でそれぞれに必要な資源を求めて、しれつな競争を行った結果、たまたまその環境に適した変異をもった生物だけが子孫を残すことができるために、結果として起こる現象だというのです(生存競争)。
例えば、キリンが首は長いのは、首の短かったあるキリンが、低いところの葉っぱが食べつくされたため高いところの葉っぱを食べようと努力しているうちに長くなったという訳ではありません。
首の短いキリンや長いキリンなどの個体差のあるキリンのうち、短いキリンは、高いところの葉っぱが食べれず、飢え死にして、比較的首の長いキリンのみが生き残りました。
さらにその個体を受け継いだ長い首の子孫のうち、より環境に適したさらに長い首の個体のキリンが生き残ってゆき、幾世代ものちには、今日見るようなキリンの集団となったという訳です。
ライチョウの体の色で見ますと、雪の地帯にいるライチョウはより白い方が鷹に襲われにくく生き残り、黒や茶色のライチョウは鷹に見つかりやすく死滅してしまいます(自然淘汰)。
これを子孫が受け継いでゆき、白いライチョウの集団が生き残ったという訳です。
1匹のキリンや1羽のライチョウが変わろうと頑張ったわけではありませんし、変化が起こるのは、何世代もたってからです。
さらに、進化というのは、進歩するとは限らず、例えば、強風が吹きつける孤島の鳥は、羽の大きなものは飛ばされやすく、羽が小さいかほとんどないものだけが生き残ります。飛ぶという意味では退化していますが、その集団は、島の自然に適合しているわけです。
結局、個体自身が変化しようと考えたり、努力した結果その個体が進化したわけではなく、環境に適した個体だけが生き残り、子孫にそれが受け継がれてその特徴が強調されていって、その個性が集団として存在するようになったのが進化という過程です。
以上NHKのeテレ「100分 de 名著」ダーウィン「種の起源」の番組を参考にさせてもらいました。
ちなみにこの4回にわたる番組のゲストは、日本人間行動進化学会の長谷川眞理子会長で、懇切丁寧な説明でした。
2015年8月に放送された番組ですが、現在でもNHK+で見ることができます。
進化論の間違いに関するネットの反応
- 自分達の都合の良い様に思想や科学を切り貼りして世論誘導するのは原理主義やカルトの常套手段ですからね。社会ダーウィニズムから優生思想が生まれ、それが特定民族の浄化等という思想にも繋がる歴史も実際有った訳ですし。それをまた憲法改正へと誘導するというのも実にお粗末。
- 不磨の大典、ではなくて、状況に応じて憲法は変えても良いもの。勿論、変えなくても良い。人間が作ったものだから。進化論とは何も関係ない。
- 自ら変化しなければという意思なんて生物にあるわけないからね。自ら変化しなければ生き残れない、という言い方は、経営学者が好む言い方で、これの解説書だとよく進化論を引き合いに出してる。
- 何にせよ進化はあくまで偶然の産物で、組織の改革・改善の引き合いに出すのは見当違いだという事をはっきりと認識して頂きたい。
- ナチスドイツは理論武装の為に進化論を持ち出した。その歴史的経緯を踏まえて、政治家たるもの進化論への言及や、進化論の援用には、慎重の上にも慎重を期さなくてはいけない。
出典:ヤフコメ
まとめ
- ダーウィンの進化論はランダムに⽣じた様々な個体の変異の中から、その意志に関係なく環境に適さないものが淘汰されて、環境に適した個体が生き残って、幾世代も経ているうちに、その変異の特徴を持った種の集団となるというもので、「変化しようとしない個体は生き残れない」との自民党広報の解釈とは無縁のものである
- 古くから政治家や経営者が自然界の進化論を、政治や企業統治に利用してきた歴史があり、最たるものは、ナチスのユダヤ人虐殺につながった優生思想である
- これまでの歴史で、政治家が最も気を付けなければならないはずの、進化論を使って自己の政策の正当性を主張したことに、驚き、批判の声があふれている
「100分 de 名著」ダーウィン「種の起源」は2015年に放送された4回シリーズの番組ですが、その最終回で、特定の政治的主張に権威を与えるために、進化を含む科学的知識が誤⽤される事例がしばしばみられますと警鐘を鳴らしていました。
資本家が現れ、資本家vs労働者、植民地などでこの論理が使われ、ついには、ナチスドイツの優生思想で、社会にとって有用な民族は生かし、良くないのは断種するなどで、ユダヤ人虐殺につながったそうです。
従て、進化論を研究するものにとって、進化論の政治利用は最も懸念することです。
これが今回の学会としての強い批判につながったと思われます。
これに対し、当事者からは現時点では何の反応も出ていないようです。
是非「100分 de 名著」ダーウィン「種の起源」(2)以降は視聴できますので、これを見て感想を伺いたいものです。
なお、ダーウィンは。全ての生物は「生命の樹」といわれる一つの巨大な連鎖でつながっており、人間もその一部にすぎないとして、生命の多様性を認め、人間が他の種より優位であるとの思想とは全く真逆だったそうです。