池井戸潤『民王』感想文:風刺小説であると同時に美しい正論も読ませてくれる小説は最高のエンタメ!

  • 2022年8月7日

池井戸作品の魅力は苦しい状態からの大逆転だと思う。

ゆえに物語自体はシリアスに追い詰められていかないと、最後の大逆転にギャップが生じない。だからなのか、多くの池井戸作品はシリアスに物語が展開することが多いのだが、物事には必ず例外が存在する

この『民王』は、シリアスな池井戸作品の中では異端児のように存在感を発揮するので、この作品の感想を書かせてもらえたらと思う。

民王

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あらすじ

「お前ら、そんな仕事して恥ずかしいと思わないのか。目をさましやがれ!」
漢字の読めない政治家、酔っぱらい大臣、揚げ足取りのマスコミ、バカ大学生が入り乱れ、巨大な陰謀をめぐる痛快劇の幕が切って落とされた。
総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは!?一気読み間違いなしの政治エンタメ!
(引用:amazon)

ゴリゴリの古き良き?政治家体質の総理大臣:武藤泰山と、大学生の息子:武藤翔の中身(記憶?)が入れ替わるドタバタ政治コメディー。

普段の池井戸作品と違っていい意味でシリアス感がほとんどなく、愛のこもった皮肉と一部の世間へ対する批判で積み上げられた作品。

真剣に書かれると「ふざけるな!」と怒鳴りたくなるような政治家たちだが、どことなく愛らしくコメディーに描かれているので、シリアスな展開も楽な気持ちで読んでいける。入れ替わった2人の運命やいかに!?

感想

痛烈に政治家を皮肉った内容で埋め尽くされており、過去に実際にあった政治家の事件をベースに総理と息子の頭が入れ替わってしまうSF要素を取り入れた物語になっている。

確かに、漢字の読み間違いをマスコミが連日報道していた時期があったり、会見の際に目の焦点が合っておらず支離滅裂なことを言っている政治家の大先生がいたなぁ・・・と少し懐かしんでしまう内容。

批判されているのは政治家だけではない。一部のマスコミの稚拙な揚げ足取りや、最近のバカ大学生の現状も痛烈に皮肉った内容が描かれている。本当によくもまぁこれだけ皮肉を並べたものだと、池井戸さんに感心してしまう。それと同時に”あるあるネタ”のように、ついつい笑ってしまうような展開や行動が続くのでエンターテイメントとしても非常に優れている印象。

誰しもが内心で思っている政治家やマスコミや大学生に対する正論をぶちまけてくれており、良い意味でスカッとして同時に脱力する内容になっている。

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後半の美しい正論

ところが後半部分は一転。皮肉だけで終わらないところが池井戸作品らしい。

入れ替わってお互いの大変さや現状を把握することで考え方が変わっていく泰山と翔。
裏切りや事件解決などのクライマックスも面白く。真相が判明した後の二人の内面の変化も頼もしい。

そして、解散のタイミングが胸を熱くさせてくれる。格好いい政治家ってこういう事だよな!と納得してしまうエンディングは必見だ。

実際に起きた事件を小説に反映していると風刺的な小説に思われがちだが、ボール一個分だけ内側に投げ込んでいるイメージで、政治家に必要な本質的な資質は何か?というテーマを盛り込んでいるように思える。

その本質的な問いかけがある為に、一つの時代を切り取った風刺小説では終わらない作品となっている。

最後に

僕は観ていないがドラマも人気で高視聴率だったようだ。

確かにドラマにしやすそうな物語でスペシャルドラマや番外編としてスピンオフドラマまで出ているとなると、相当な人気があった作品なのだろう。

この作品自体が、普段の池井戸作品で見られる重厚なテイストと違い、ドタバタしたコメディータッチの作品なので、ドラマ化しても色々遊べる作品なのかもしれない。池井戸先生もドラマの様々な変更点を楽しんで認めていたようだ。

たまにはこういう愛のあるディスり小説を読んでみるのも面白味があっていいもんですね。

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