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辻村深月『ツナグ』感想文:心をツナグのではなく繋がりを切り離す物語

映画化されていた作品なので名前だけは知っていたが、ずっと未読だった辻村深月ツナグ』の文庫本を先日読んだ。作品ごとに少しつながりを持たせる作家だが、この作品は完全な単独作品なのでどのタイミングで読んでも支障はないと思う。

人気作だけあって内容も構成も面白く、一気に読み切ってしまった。辻村作品はシンプルな味付けの料理に見えても隠し味がたくさん入っているの読んでいてワクワク感が継続していく印象がある。やっぱりいいですね。

今回は作品ごとに進化をし続けている辻村作品の中から、その『ツナグ』の感想文を書かせてもらいたいと思う。

ツナグ

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あらすじ

一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。

引用:amazon

「使者」と書いて「ツナグ」と読むこの作品は5つの章に分かれている。それぞれ、

が主人公として描かれる。

それぞれに死者に会いたい理由が有り。人生で一度だけ、それも一晩だけ死者に会える権利を使って出会うことで物語が展開していく。この人生で一度きりというのが悩ましいルールだ。何度でもよければ昔のAV女優とサッカー選手に会いまくるのだが、一度きりだと流石に考えてしまう。

死者として待つ感情も、生者として会いに行く感情もじんわりと理解できる共感性もあり、最終章では渋谷歩美の両親の死の真相が明かされるミステリー要素もあるので最後まで楽しめる作品になっている。

感想

亡くなった人間と再会するというストーリーは昔から多く存在してきた。死者との再会は、割とお手軽に読者に対して感動を与えることが出来る題材ではあるが、作者・辻村深月はそんなシンプルでチープな“お涙頂戴”には走らない作家だなと改めて思う。

登場人物たちの中には、ただ愛情のみで死者と再会しようとしている訳ではない人物もいて、時に自分可愛さの保身のためであったり、時に自分の人生の迷いを晴らすために死者と会おうとする人もいる。

特に『親友の心得』に登場する嵐美砂のストーリーは辻村作品らしい登場人物たちに容赦のない展開になっており、全編にわたって、愛情だけを押し付けたような作品ではないので、感動を押し売りしてくるような作品とは違い、余計に物語に引き込まれることになる。ちなみに「道は凍ってなかったよというセリフの一方通行な残酷さは今も少しダメージがあるほどだ

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本当は“ツナグ”ではない?

題名が『ツナグ』なので、各章の登場人物たちと亡くなってしまった人たちを、文字通り “繋ぐ” 役割を果たす物語に思えるが、同時にそれぞれの登場人物たちが亡くなった人たちに捕らわれ、がんじがらめにされている鎖を “切り離す” 役割をしているのがツナグなのではないだろうか。

自然の摂理に逆らってでも死者に会わなければならない理由がある時点で、ある意味、死者に捕らわれており、すでに死者と繋がってしまっているように感じる。その縁を断ち切り、前に進ませてあげることがツナグなのではないかと僕は理解した。

実際は繋いでいるのではなく、断ち切っているツナグの存在を読んでいると、自分自身がこの作品の登場人物だった場合、いったい誰に会おうとするのかを想像してしまう。つい自分に置き換えてしまうのは優れた作品の特徴だと思っている

視点の変化

この作品の優れているところは、最後の章がツナグ側の視点で描かれていることだ。ツナグによって死者と対面する登場人物たちが表の主人公とすると、ツナグ自身は裏の主人公として描かれる。

それぞれの章ではツナグはあくまでも裏方の仕事をほぼ無感情でこなすするが、最後の章でツナグの感情変化を入れ込みつつ、再度今までの登場人物との関わり合いが読める為、物語全体に厚みと深みが加えられる構成になっている。このあたりは、辻村深月の構成の妙だと思う。まだ若いのにねぇ・・・。

映画化もしている

2013年に映画化もしており、当時見たい気持ちもあったのだが、感動を押し付けられているようなCMに拒否反応を示してしまい、結局見に行かなかった。

キャストを見ると良さそうですよね。

渋谷歩美 – 松坂桃李

出典:https://twitter.com/ikementoori

日向キラリ – 桐谷美玲

御園奈津 – 大野いと

渋谷アイ子 – 樹木希林

土谷功一 – 佐藤隆太

嵐美砂 – 橋本愛

畠田靖彦 – 遠藤憲一

渋谷亮介 – 別所哲也

渋谷香澄 – 本上まなみ

御園奈々美 – 浅田美代子

畠田ツル – 八千草薫

秋山定之 – 仲代達矢

特に松坂桃李あたりはやや純朴な雰囲気も出ていて、歩美のイメージに近い気がする。不思議な雰囲気があるので樹木希林さんもいいですね。もうちょっと痩せているイメージだけど。でも桐谷美鈴がキラリ役はちょっと無理があるような気も・・・。

一番イメージに近いのは、畠田靖彦役の遠藤憲一さんかもしれない。ピッタリ。

最後に

辻村深月の作品は登場人物たちの心を追い詰めるものが多い気がする。

だから一発逆転の爽やかさもなければ、わかりやすい感動を提供する作品なわけでもない。それでも辻村作品を手にとってしまうのは、心を追い詰められた登場人物たちの感情が、自分もどこかで感じたことがある懐かしい痛みだからなのではないかと思っている。

どこか同調してしまう嫌な心理描写は、柔らかく自分自身を戒めてくれる薬なのかもしれない。辻村深月作品は良薬口に苦しという言葉かピッタリだ。

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