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超能力者が登場する珍しい小説たち【9作品】

※2018年7月30日更新

「超能力者はこの世界に本当に存在するのだろうか?」

そんな疑問は誰しもが抱いたことがあり、肯定派・否定派が多数存在する。いまだに議論されているということは明確な回答は得られていないのだろう。

小説においても “超能力” という存在が登場することがあるのだが、超能力という言葉の知名度に比べ、明確に超能力と定義されている能力が登場する一般小説は意外と少ない。

その理由としては、おそらくフィクションの作品において “超能力” という言葉ではインパクトに欠けることが挙げられるからだと思っているのだが、そんなインパクト不足を吹き飛ばすような素晴らしい≪超能力者が登場する小説≫というのも存在する。

今回はそんな≪超能力者が登場する小説≫を紹介していきたいと思う。

ルール

  1. 作中で超能力という言葉で表現されている
  2. 超能力と呼ばれなくとも、世間的に認識され名称がある能力(テレパシー、パイロキネシスなど)が登場する
  3. 魔法、マジック、霊的な物語は除外

といったユルい感じでいきます。だからユルく読んでほしい。

新しい作品との出会いのきっかけになれば嬉しく思う。

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増山超能力師事務所 #誉田哲也

日暮里駅から徒歩10分。ちょっとレトロな雑居ビルの2階にある増山超能力師事務所―。所長の増山率いる、見た目も能力も凸凹な所員たちは、浮気調査や人探しなど、依頼人の悩み解決に今日も奔走。超能力が使えても、そこは人の子。異端の苦悩や葛藤を時にユーモラスに時にビターに描く人気シリーズ第1弾。

誉田哲也が贈る、脱力系コメディSFに見せかけたハードボイルド人情SF(そんなジャンルがあるかは知らないが、笑)。タイトルに“超能力”という言葉が入っているだけあって、完全に超能力の話なのだが、同時に作中において超能力は、ストーリー上の義理人情を引き立たせるための一つの要素でしかないところは、“超能力”のオツな使い方だと個人的に思っている。連作短編でそれぞれの章によって主人公が違うので、読み進めていくことでそれぞれが周囲の仲間に対してどんな印象を持っているのかがわかり、さらに、主人公・増山に関してだけは一人称視点がなく、周囲からの印象しかないのも素晴らしい特徴といえる。

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ガダラの豚(全3巻) #中島らも

アフリカにおける呪術医の研究でみごとな業績を示す民族学学者・大生部多一郎はテレビの人気タレント教授。彼の著書「呪術パワー・念で殺す」は超能力ブームにのってベストセラーになった。8年前に調査地の東アフリカで長女の志織が気球から落ちて死んで以来、大生部はアル中に。妻の逸美は神経を病み、奇跡が売りの新興宗教にのめり込む。大生部は奇術師のミラクルと共に逸美の奪還を企てるが…。超能力・占い・宗教。現代の闇を抉る物語。

中島らもの大傑作。全三巻で構成されている超能力小説だが、それぞれの巻で全く違う作品のように物語が展開していくので、まったく先の読めないスリリングな感覚を味わえる。ちなみに1巻ではドラマ『TRICK』のように超能力者VS科学者&マジシャンの図式で物語が展開していく。2巻では『インディージョーンズ』のような冒険譚でアフリカへ。そして3巻では予想もつかない大大大逆転が待っているスペクタクルなエンターテイメント作品になっている。読む巻によって読み応えがこれほど違うのは珍しいので、本当に“超能力”が存在するのかを一緒に探りながら読んでみてほしい。

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春を嫌いになった理由 #誉田哲也

フリーターの秋川瑞希は、テレビプロデューサーの叔母から、霊能力者・エステラの通訳兼世話役を押しつけられる。嫌々ながら向かったロケ現場。エステラの透視通り、廃ビルから男性のミイラ化した死体が発見された!ヤラセ?それとも…。さらに、生放送中のスタジオに殺人犯がやって来るとの透視が!?読み始めたら止まらない、迫真のホラー・ミステリー。

誉田哲也の超能力作品をさらにもう一冊。装丁に問題ありというか、表紙の写真が青空なので、爽やか系の物語に見せかけて、実は霊能力と殺人の話。あまりにも表紙のイメージと内容が違うので、初読みの方は気を付けて頂きたい。テレビ放送と霊能力の組み合わせなので上記の『ガダラの豚』を連想させるが、霊能についての造詣の深さは残念ながら遠く及ばない。しかし、超能力の話と同時進行で中国から不法入国してきた兄妹の話を展開させ、最終的に繋げていく手法は、この作品にしかない魅力であり、この作品の最大の見せ処だと思う。

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龍は眠る #宮部みゆき

嵐の晩だった。雑誌記者の高坂昭吾は、車で東京に向かう道すがら、道端で自転車をパンクさせ、立ち往生していた少年を拾った。何となく不思議なところがあるその少年、稲村慎司は言った。「僕は超常能力者なんだ」。その言葉を証明するかのように、二人が走行中に遭遇した死亡事故の真相を語り始めた。それが全ての始まりだったのだ……宮部みゆきのブロックバスター待望の文庫化。

少年が主人公の超能力小説。宮部作品に登場する少年は総じて魅力的に感じられるのだが、この『龍は眠る』の主人公・慎司は薄暗い空気感を持っており、宮部みゆきの他の少年作品とは何となく毛並みが違う印象を受ける。また、エンターテイメント性の高いサイキック作品ではなく、心情面とストーリー性に重きを置いている作品なので、“楽しんで読む”というより“心して読む”べき超能力小説といったところ。超能力者二人の能力を疑いつつもいつの間にか肩入れしていく人の良さが自然体で描かれる様子は流石宮部みゆきだ。

ちなみに気に入っている言葉は、

「自分一人で全部しょって立つ気構えがなかったら、他人の身に起こることに関わっちゃいけない」

クロスファイア #宮部みゆき

四人の若者が廃工場に瀕死の男を運び込んできた。その男を“始末”するために。目撃した青木淳子は、力――念力放火能力(パイロキネシス)を放ち、三人の若者を炎上させる。しかし、残る一人の若者は逃走。淳子は、息絶えた男に誓う。「必ず、仇はとってあげるからね。」一方、現場を訪れた石津ちか子刑事は、不可解な焼殺の手口から、ある事件を思い出していた!話題の超傑作、ついに登場!

同じく宮部みゆきの超能力小説といえばこの作品。念力発火能力「パイロキネシス」を持って生まれた主人公・青木淳子が、法律で裁くことのできない犯罪者を正義の名の下に殺害していくストーリー。と、それだけ聞くとアメコミ系映画のようだが、もう一人の主人公である石津ちか子が警察目線から淳子を追うので、単純な正義の物語というわけでもない。犯罪者を罰したい気持ちと実際に犯罪者を殺すという行動の部分には大きな心の開きを感じさせてくれる作品で、結末のわびしさ…というか、やりきれなさは自分が想像していたよりも心にダメージを受けてしまった。でも、宮部みゆきはこういう部分で登場人物と自分自身に対してシビアで公平な作家だと思っているのでとても好きだ。

七回死んだ男 #西澤保彦

同一人物が連続死! 恐るべき殺人の環。殺されるたび甦り、また殺される祖父を救おうと謎に挑む少年探偵。どうしても殺人が防げない!? 不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう、渕上零治郎老人――。「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは! 時空の不条理を核にした、本格長編パズラー。

他の超能力小説とは一線を画すアイデアが盛り込まれている革新的な作品。いわゆるタイムリープものだが、本人の意思でタイムリープするわけではなく、自動的に反復してしまうという点と、そのタイムリープ中に殺人事件が発生するという2重の物語構成が作品を盛り上げていく。SF作品でもあり、骨格のしっかりした論理ミステリーでもあるので様々な観点から楽しむことができる。さらに最終章での伏線の回収は素晴らしいので、主人公であるキュータローの視点で共に楽しんでみてほしい。ちなみに作品に登場する友理さんが好みのタイプと言っているキュータローとは良い酒が飲めそうな気がする。

時をかける少女 #筒井康隆

放課後の誰もいない理科実験室でガラスの割れる音がした。壊れた試験管の液体からただようあまい香り。このにおいをわたしは知っている―そう感じたとき、芳山和子は不意に意識を失い床にたおれてしまった。そして目を覚ました和子の周囲では、時間と記憶をめぐる奇妙な事件が次々に起こり始めた。思春期の少女が体験した不思議な世界と、あまく切ない想い。わたしたちの胸をときめかせる永遠の物語もまた時をこえる。

タイムリープものといえば、あまりにも有名な筒井康隆のこの作品も外せない。アニメ、映画、ドラマ、漫画など様々な媒体で描かれているが、その原作は思いのほかあっさりした、サラリとした読み口の作品になっている。厳密に言うと、薬を使ってのタイムリープなので超能力者というには無理があるが名作なので入れてみた。昔の作品なのに今でも愛され続けているのは、細かい設定をすべて明かさないことで読者の想像力を刺激することと、ラベンダーの香りといった五感を刺激する象徴的なキーワードを入れているからだと思われる。アニメ映画との絶妙な繋がりがとても好き。

家族八景 #筒井康隆

幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい本である。

筒井康隆つながりでもう一作品。こちらの方がガッツリとして超能力小説になっている。テレパスである七瀬が家政婦をしつつ雇い主の心を読んでいくシニカルな作品。登場する男性たちが七瀬を脱がす妄想をしていることを、七瀬がテレパシーのイメージで見ている場面に妙な艶めかしさがあるので味わってみてほしい。ちなみにこの作品は七瀬三部作の1編なので、『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』という続編が出ているのだが、家族八景のように生っちょろい話ではなく、巨大組織の超能力者と戦ったり、宇宙の意思やら神的存在が出てきたりと、超シビアでブルーな内容になっている

ヒア・カムズ・ザ・サン #有川浩

編集者の古川真也は、特殊な能力を持っていた。手に触れた物に残る記憶が見えてしまうのだ。ある日、同僚のカオルが20年ぶりに父親と再会することに。彼は米国で脚本家として名声を得ているはずだったが、真也が見た真実は――。確かな愛情を描く表題作と演劇集団キャラメルボックスで上演された舞台に着想を得た「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」を収録。有川浩が贈る物語新境地。

有川作品らしい読みやすさが魅力のサイコメトラーが登場する作品。同じ設定、登場人物なのに関係性を変えたパラレルワールドを描いた二つの物語が一冊に集録されている珍しい形態をしている。どちらの作品も物に込められた残留思念を読み解くサイコメトリーの力を持った主人公が周囲の小さな事件を解決する話になっていて、読んでいて心地よい。でもこの話そのものは、サイコメトリーがなくてもほぼ成り立っている話のような気もするし、エスパーでなくとも物凄く察しがいい人でこれくらいの人はいそう。

最後に

僕自身は現実的に超能力者と呼ばれる存在に出会ったことがない為、その存在の有無について言及することはできないし、するつもりもない。

しかし、“超能力” という存在は未確認だからこそミステリアスに感じられ、そのミステリアスな側面がある種の憧れのような存在のように世間に認識されているのではないかと思う。

そんな風に考えると白黒をハッキリさせずにうやむやにしておくことで、その存在がより際立っているように感じてしまうので、超能力の存在の有無に関わらず不明確なままで時代が進んでくれるのが一番うれしく思ってしまう

“超能力” について考えると、僕はいつもそんな結論に至る。

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