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三浦しをん『風が強く吹いている』感想文と紹介:青春が熱すぎて読み終わると寂しくなってしまう超名作

先日、マラソンが趣味という訳でもないのに何故か社長の趣味であるハーフマラソンに付き合いで走ってきた。僕は社長命令で土下座を命じられたら勢い余って三点倒立してしまうような社畜のサラブレッドなので言われるがままマラソンを走るしかなく、走りきったはいいものの体はバキバキ、心はポキポキ、股間はヌキヌキで今は散々な状態だ。

そんな自らを振り返り、とりあえず「走る」をテーマに書評でも書こうかと思い立ち、三浦しをんさんの『風が強く吹いている』を重大なネタバレはあまりしない方向で紹介したいと思う。

風が強く吹いている

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三浦しをんという作家

直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒(シリーズ)』や、本屋大賞に選ばれた『船を編む』など数え上げればキリがないほど名作を世に送り出している三浦しをんさん。改めて紹介する必要もないだろうが、シリーズもの、ノンシリーズ、さらにはエッセイまで安定して面白いので、受賞作以外に手を出しても、ほとんどはずれがない素晴らしい作家さんだと思う。
僕はまだ『神去なあなあ日常(シリーズ)』には手を出しておらず、全てを読破したわけではないが、個人的には『きみはポラリス』『ロマンス小説の七日間』などの王道からボール一個分外した恋愛ものをオススメしたい。

どんな物語なのか?

綺麗にまとまっている映画のあらすじから引用させてもらう。

天に与えられた“走る”才能をもった2人の若者が出会った。致命的な故障でエリート・ランナーへの道を諦めたハイジと、ある事件から走る場を追われたカケル(走)だ。ハイジはカケルこそが秘かに温めていた計画の切り札だと確信、壮大な夢への第一歩を踏み出す。それは、同じ寮で共同生活を送る8人のメンバーと学生長距離界最大の華といわれる<箱根駅伝>出場を目指すこと。ところが彼らは陸上から縁遠い上、漫画オタクや25歳のヘビースモーカー、アフリカから来た留学生…。しかし、ハイジの緻密なトレーニング法と走ることへの信念、仲間への揺るぎない信頼が、皆を変えていく。やがて明かされる、ハイジの故障の理由とカケルが起した事件の真相、そして8人それぞれが抱えてきた本当の想い。果たして、心を一つにした10人は、箱根の頂点に立つことができるのか???(引用:映画HP

簡単にいってしまえば、二人の天才ランナーと、ほとんど長距離の経験がない青年たちが箱根駅伝を目指す物語なので、初めて読んだ時は「いやいや流石に無理があるぜ旦那」なんて思っていたのだが、読み終わる頃にはそんな穿った目で見ていた自分を恥じるほど素晴らしい物語になっている。

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アオタケの仲間たち

ハイジやカケルたちが住む竹青荘通称「アオタケ」には10人の仲間たちが住んでいる。その仲間たちが特徴的かつ魅力的であることも、この作品が生き生きとして見える理由として挙げられるかもしれない。

彼らが喧嘩したり、練習したり、それらを乗り越え大きく成長する姿を読んでいると胸が苦しくなる。こんな風にむき出しの自分をぶつけ合って削りあえることは本当に価値があることだが、その価値を知るのはもっと大人になってからだろう。荒削りの美しさは若さあってこそだと思う。

ちなみに、最後のレースシーンは「神童」「王子」そして「ハイジ」が走っている場面が特に秀逸だと思っている。今思い出しただけで目頭が熱くなってしまう。

運動部と文化部あるある

物語の途中で陸上経験者のカケルは、陸上未経験者で努力をしていないように見える他のメンバーにイラついてしまう場面がみられる。努力もしているし、才能もあるカケルにとっては、出来ない人間がやらない(ように見える)姿は腹が立つのかもしれない。

そんな彼らはぶつかって喧嘩をして、お互いのことを分かり合っていくので良いのだが、現実世界だと中々こうはいかない。

実際に学生の頃の体育の授業で、運動部でスクールカースト一軍の奴が五軍の文化部に偉そうに指示をだしている場面を良く目撃した。今考えると改めて理不尽だなぁと思うのだが、僕自身こういう学生生活のヒエラルキーの中をストレスを抱えながらコッソリと逃げ延びてきたきたタイプなので、こういう場面を見ると胃がキリキリしてきてしまう笑。

速いよりも強い

そんな風に長距離走が遅い他のメンバーに苛立つカケルに対して、ハイジがかけた言葉がある。そしてその言葉こそ、この物語を象徴するテーマだと思っている。

「長距離選手に対する、一番の褒め言葉がなにかわかるか」
「速い、ですか?」
「いいや。『強い』だよ」
 と清瀬は言った。
「速さだけでは、長い距離を戦いぬくことはできない。天候、コース、レース展開、体調、自分の精神状態。
そういういろんな要素を、冷静に分析し、苦しい局面でも粘って体をまえに運びつづける。
長距離選手に必要なのは、本当の意味での強さだ。俺たちは、『強い』と称されることを誉れにして、毎日走るんだ」

速さを競う競技において最高の褒め言葉は「速い」であることは疑いようがない。しかし長距離ランナーを褒める時においての一番の褒め言葉は「強い」だとハイジは言う。僕はこのやりとりこそが、この物語のテーマではないかと思う。

物理的な速さも含めてだが、走ることを目的とした自分に対する厳しさ。他人の心と向かい合う人間としての強さ、多くの要素を踏まえたうえで、まっすぐ前を向いて走れる人間こそ『強い』長距離選手なのだ。アオタケの面々はこの『強さ』を持っているからこそ、読んでいて心から応援してしまうのだろう。

ちなみに『早い』よりも『強い』が褒め言葉なのは、夜の営みと同じだと思っている。余計な言葉を添えている自覚は一応ある。

ほかのメディアになっている?

他の媒体として、2009年10月31日公開で映画化されている。

主演はハイジ役として小出恵介。カケル役として林遣都が演じている。ドラマ『ROOKIES(ルーキーズ)』でもそうだったが、小出恵介さんはスポーツ青春もので抜群の魅力を発揮している。あの爽やかさと不器用そうに見える演技が、絶妙に思春期の自分たちに重なるからかもしれない。

林遣都さんはドラマ『精霊の守り人』のシュガ役や、高田郁さん原作の時代小説『銀二貫』(この作品もめっちゃ泣ける)のドラマ版で主演の松吉役をしたり、魅力的な作品で重要な役をこなしている。

また、理由は良くわからないが、ムサ役としてダンテ・カーヴァーが出演していることに僕は少しだけテンションがあがる。

さらに『女子アナ魂』を描いていた、海野そら太さんの作画で集英社から漫画にもなっている。集英社ヤングジャンプコミックスから単行本が全6巻で発売されている。

『金哲彦のランニング・メソッド』金哲彦

一応「走る」をテーマにお薦めしたい本というと、実際に走ることを考え、こんなハウツー本がある。

僕が実際にハーフマラソンを走るにあたって購入した本で、ランニングをするときに必要な基礎知識やランニング時のフォームの改善などが写真付きで解説されている『金哲彦のランニング・メソッド』

事前の準備運動・運動後のクールダウンの運動も含め、ランニングに必要な情報がふんだんに盛り込まれているので僕のような初心者にとっては重宝する一冊になっている。

僕が役に立つと感じたのは、走っている最中の様々なトラブル(○○が痛いとか走り方がおかしいとか)に対しての応急処置のケーススタディが写真付きで解説されているところ。僕は頭でっかちなので、まずはランニングに関してしっかりと勉強してから行動に起こそうと思い、この本を読んで研究した。とりあえずこの本さえあれば、スタート段階で困らないと思われる。

フォームについてはもちろんだが、自分なりの練習スケジュールを組めたのも良かったので、僕がハーフを走りきれたのはこの本のおかげといっても過言ではない。それくらい役に立ったので、これからランニングを始める方や、改めて学びたい方には是非手に取ってもらいたい本だ。

『強奪 箱根駅伝』安東能明

さらに箱根駅伝といえば、安東能明さんの『強奪 箱根駅伝』というサスペンス小説がある。

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実は箱根駅伝とサスペンスという組み合わせは結構珍しく、僕は他に知らない。あらすじは神奈川大学駅伝チームの女子マネージャーが誘拐されて、箱根駅伝のTV中継の最中に警察と犯人とテレビ局の思惑が交差し、激しい攻防戦を繰り広げるというもの。

事件発生から息つく暇もない・・・と言えば聞こえがいいが、悪く言えばストーリーがバタついて見える展開なので、警察・テレビ局・犯人・学生達の誰に感情移入して読むべきなのか迷ってしまうというデメリットを感じた。

しかし、この作品は箱根駅伝フリークへ向けたサスペンスだ。普段から箱根駅伝を見ているファンの為に書かれた作品で、箱根駅伝の中継のリアルさや、実際の地名、大学が登場する中での事件という格別のリアリティを存分に感じられる作品となっているのは間違いない。

さらにサスペンスの部分が終わった後、クライマックスの十区の激走は単純にスポーツ小説としても素晴らしかったので、是非、箱根駅伝ファンでサスペンス好きの方は一読を。

最後に

本当は、箱根駅伝が始まる時期に書評や感想を書きたかったのだが、ハーフマラソンを走ったという完全に自分だけの時事ネタをベースに書いてしまった。タイミングは悪いのだが、この作品は傑作であることは間違いないのでチャンスがあれば絶対に手に取ってほしい。

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