新型コロナウイルスの緊急事態宣言はさらに5月末まで続くことになりました。政府は地域の実情によって段階的に規制を緩めていくとしていますが、社会の機能が元に戻る日はまだまだ見えません。
コロナ禍の中で人々の精神状態も不安定になり、いわゆる強いストレス、イライラ感はもちろん「正義中毒」「自粛・不謹慎厨」といった新たな「心のカテゴライズ」まで生まれています。
さらに心理学の専門家の間では、このまま社会に大きな抑制や不安が続くと「集団ヒステリー」が起きかねないと警鐘を鳴らす声もあります。集団ヒステリーとは意味は?過去の例やコロナ禍での発生の恐れなどを調べてみました。
集団ヒステリーとは意味は?
長引くコロナ禍と「自粛社会」の中で、「集団ヒステリー」という言葉がチラホラ聞かれ始めました。実業家の堀江貴文氏は最近「例えば昼間に箱根に遊びにいってどこで感染すんのよ。って思うけどもう集団ヒステリーだからどーしようもない」とツイート。皮肉をこめた比喩的な表現ですが、そもそも集団ヒステリーとは、その意味はどういうものなのでしょうか。
「世界大百科事典」によると次のように説明されています。「一定の集団内で多数の人にヒステリー症状、痙攣、失神などの身体症状、興奮などの精神症状が伝播すること。通常は仲間、住民、団体などの親密な関係をもつ小集団内で、発端者がなんらかの症状を呈し、それが間もなく他人につぎつぎと伝わる」
「知性を持った社会的生き物」人間ならではの、通常では考えられない集団的異常行動ともいえる「集団ヒステリー」。神戸新聞Web版によると、大手前大学の尾崎耕司教授はこのコロナ禍でも起き得ると、過去の事例を基に警告しています。
尾崎教授によれば、過去に日本で蔓延し数万人以上の死者を度々出したコレラ禍で集団ヒステリーが発生。例えば次のような事例だそうです。
■1879年のコレラ流行時、新潟で「一部の住人が患者を殺そうと毒をまいた」とデマが流れ、私刑にしようとする民衆と保護しようとする警官が衝突。愛知でも警官が井戸の周囲を消毒しようとした際、住人から「毒を入れている」と疑われ、暴動が起きた。
■1885年、長崎市ではコレラ患者が亡くなった患者とともに海岸へ送られ、鉄板の上で生きたまま焼き殺されたと新聞報道。1925年発行のルポルタージュ「女工哀史」では、大阪の工場で工場側が患者の存在を隠そうとしたためコレラ感染が広がり、工場主が医師を買収して感染者に毒を飲ませ、数百人の女性が殺されたと記載。
今では考えにくい非常に凄惨な事件ばかりですが、明治・大正期には、病気の予防法も治療法も分からずバタバタと人が死ぬため、恐怖心に耐えられず精神的異常行動が集団で起きたのでは、と考えられるそうです。
尾崎教授は「不安による集団ヒステリーが社会規模で広がると、普段であれば理性的に対応できる人も、どんどん追い詰められていく」とコロナ禍の現在でも注意が必要だとしています。
コロナにおける集団ヒステリーの具体的事例
理性的に考えれば「そんなことあるわけない」と思うことが、異常な環境では意思に関係なく頭と体に伝播し行動に出てしまうという意味の「集団ヒステリー」。集団ヒステリーとは何もコレラやコロナのような深刻な災禍でなくても、「ちょっとしたデマ」で発生した事例があるようです。報道によると例えば以下のようなものです。
過去の〝まさか〟な集団ヒステリー例
■2013年、兵庫県立高校の廊下で、1年生の女子生徒が休み時間に女子トイレ前で「気持ちが悪い」とパニック状態で体調不良を訴え、それを見た他の生徒が次々に過呼吸になり、1時間ほどで約20人が救急搬送。
■数年前、バングラデシュの衣料品工場で、経営者が水の異常を工場内に放送したところ、水道水を飲んだ社員が次々不調を訴え、約60人が入院。しかし水質調査では異物は検出されなかった。
■京都方面を訪れた中学校の社会体験。工場見学を終えて学校に戻るバスの中で、トンネルを通過中、ある生徒が「霊が見えた」 と騒ぎ出し、他の生徒らもパニック状態に。多くの生徒が過呼吸などの症状になり13人が救急搬送。
コロナ禍での集団ヒステリーの恐れ
まさに人間の繊細さや想像力が生み出す異常ともいえる集団ヒステリー。コロナ禍でも起きうると、専門家らは以下のような事例を挙げて注意を呼びかけています。
■DV急増の恐れ
英国では外出制限が始まって以降DVに関する電話相談の件数が65%増加。仏でも警察に報告された配偶者間の暴力の件数が、パリとその周辺で1週間で36%増加。南アフリカでは全土の外出制限以降、最初の1週間だけで8万7000件を超えるDV被害の訴えが。
■自殺者増加の懸念
コロナ禍による倒産や収入減で自殺者急増の懸念。自殺者数と失業者数の間には強い相関関係があり、バブル崩壊と金融破綻などが続いた98年以降、日本では年間自殺者数が初めて3万人を突破。デフレ不況の影響で、1998~2015年までに14万人以上の自殺者が通常時より増加したと推計されている。
■コロナ離婚増加の心配
民間企業が4月に実施したネット意識調査によれば、夫の経済事情の悪化や、家庭内の家事分担の不満といった新型コロナによる新たな問題から、「コロナ離婚を考えるようになった・なりそう」と回答した女性がは4割に。年齢別では特に40代女性では半数近くに上った。
コロナと集団ヒステリーに関するネットの反応
- 人生かけて終電チャレンジしてる人はもっと声を上げた方がいい。やってらんねえよ
- 交通事故にあったら大変だから車に乗るなとか集団ヒステリーですよね
- 2020年前半は偉大な集団ヒステリー事例として長く記憶されることであろう
- 「ウイルスより怖いのは人」という言葉がよく理解できます
- スーパーでおばちゃんから突然「あなたマスクないの?」と言われた。集団ヒステリーに付き合う気はないので「そうです」と答えると、鞄からマスク出して俺にくれた。地獄への道は善意で敷き詰められているとしみじみ感じた
出典:Twitter
まとめ
今回の記事をまとめると以下の通りです。
- コロナ禍の社会活動停止拡大で「集団ヒステリー」に警鐘の声上がる
- 明治期のコレラ禍では集団殺人や暴動などの異常行動が各地で発生
- デマや過剰な思い込みで精神に起きる異常。コロナでもDVや自殺増の恐れ
感染防止のため、社会に強く行動自粛が求められるようになってはや3か月。行政や専門家、国民の努力もむなしくなかなかコロナ禍の終息は見えてきません。
政府や自治体が「一層の努力を」「長丁場に耐えて」と呼びかけるのは分かりますが、一方で「出口戦略」を示さないと国民側の納得も得られにくいといえます。国が一体となって疾病克服に立ち向かうには、説得力ある科学的分析と正しい情報、不利益を被る人への十分な補償、「こうなれば自粛状態を解除できる」という目標提示などが必要ではないでしょうか。