かぐや姫(竹取物語)
むかしむかし、ある山に、おじいさんとおばあさんが、住んでいました。
おじいさんは、竹を取って暮らす「竹取りの翁」と呼ばれ、毎日山へ竹を切りに行っていました。
ある日のこと。
おじいさんが竹やぶに行くと、根元が光っている不思議な竹を見つけました。
「これはめずらしい。どれ、切ってみるか。えいっ!」
おじいさんがその竹を切ってみたところ、なんと中には小さな小さな女の子が入っているではありませんか。
驚いたおじいさんは、女の子をそっと手のひらに乗せて、早速、家に連れ帰りました。
おじいさんとおばあさんには子どもがいなかったので、おばあさんも大喜びです。
ふたりは女の子にかぐや姫と名付け大切に育てました。
かぐや姫はすくすく育って、とても美しい娘になりました。
やがて、かぐや姫のうわさを聞きつけて、多くの人たちが、結婚したいといって訪れるようになりました。
ところが、かぐや姫は誰とも結婚する気がないので会おうとはしません。
かぐや姫を嫁に欲しいと言う特に熱心な若者が、五人いました。
そこでかぐや姫は、
「では、私が言う品物を持ってきて下さった方のところへ、お嫁に行きましょう」
と言って、世にも珍しいと言われる品物を持ってくるよう一人一人に頼みました。
五人の若者はそれぞれに大冒険をしましたが、かぐや姫の望んだ品物を手に入れた者は一人もいませんでした。
なんとか五人の若者を追い返したかぐや姫ですが、うわさは、ついに帝(みかど)の耳にも入りました。
「ぜひ、かぐやひめを后(きさき)に欲しい」
帝は、姫をひと目見て、結婚してほしいと申し出ました。
みかどの言葉を聞いたおじいさんとおばあさんは、大喜びです。
「すばらしいむこさんじゃ。これ以上のむこさんはない」
しかし、かぐや姫は帝の願いさえも、お断りしました。
やがて、夏が過ぎ、秋の十五夜近くになると、かぐや姫は、しくしくと泣くようになりました。
あまりのことにおじいさんが、なぜ泣くのかと問いただしたところ、かぐや姫は、ようやくわけを話し始めたのです。
「私は、この世界のものではありません。あの月の世界のものなのです。今度の満月の夜に、月の都から迎えがまいりますので、帰らなければなりません。」
これを聞いたおじいさんは驚いて、帝に相談しました。
帝は、何千人もの兵士を送ってかぐや姫の家の周りを守らせました。
何とかして、かぐや姫を引きとめようとしたのです。
そして、満月の夜。
急に、月が十も出たかと思うほど、あたりがぱあっとあかるくなりました。
帝の合図で、兵隊たちは弓に矢をつがえようとしましたが、月の光りに目がくらんで、動けなくなってしまいました。
その時、たくさんの天人が、雲に乗って下りて来ました。月からの迎えがやってきたのです。
「おじいさん、おばあさん。お別れするのは悲しいですが、今までのご恩は、決して忘れません…。」
かぐや姫は、お別れに不死の薬を帝とおじいさんたちに渡しました。
そうして、かぐや姫は天人と一緒に雲に乗り、月の輝く高い空へと昇って行ってしまいました。
残された三人は、悲しみをこらえてただ見送るばかりでした。
~おしまい~